~a few years later~




あれから数年が経過した。
僕たちの未来は、驚くほどに順調で。もちろん、すれ違いがなかったかと言われれば、ノー。でも、今思えば、それすら必要なことだったんだって言える。嬉しいことも、楽しいことも、悲しいことも、たまには、腹立たしいことも。沢山、感情が震える瞬間があって、そんな一瞬一瞬を、僕は大切な女性と共に過ごしてきた。いつの間にか、自分のそばに彼女がいないことが、難しくなるくらいに。
これから先も、僕のそばにいて欲しい。この想いを告げることには、人生で一番緊張したよ。普段の作った寿嶺二はどこにもいなくって、正真正銘、身の丈の僕がそこにはいた。それはもちろん、相手が彼女だから、僕は僕でいられた、というのも大きいんだけどね。
ああ、答えはどうだったか、って?僕の一世一代のプロポーズに泣き出した彼女は、イエスを返してくれた。そうじゃなきゃ、今頃、僕は心底傷心して、きっと彼女のことすら話題に出せなかったに違いない。今日もこうやって、幸せに過ごせているのは、彼女があの時、イエスをくれたからだって、僕はそう思っている。

2020年、世間を騒がせた新型ウィルスによって、僕たちのジューンブライドは延期となってしまってけれど、つい先日、家族や友人だけを招いたささやかなパーティが、執り行われた。プロポーズがうまくいったときにも、数えきれない沢山のおめでとうを貰い、そして、パーティ当日もそれは同様だった。



「れいちゃん、なまえさん、おめでとう!」


大好きな後輩たちが、それぞれのモチーフカラーのタキシードでお祝いの言葉をかけてくれる。彼等と出会ってから、もうどれくらいの時が流れただろう。彼等の成長に、僕自身も、歳を重ねたんだ、と毎年思わされたけど、いま、この瞬間もそうだった。おめでとう、と、ありがとうが飛び交う中で、自分がどれだけしあわせものなのかを思い知る。
そして、普段から素直じゃない僕のチームメイトは、それぞれが不器用なおめでとうを口にした。僕の隣の彼女にも、同じように。


「まあ、レイジはキミが思うより子供っぽいところもあるし。」
「他人に弱みをあまり見せないところもある。」
「俺らに素直じゃねぇ、って言う割に、自分もそういう奴だしな。」
「ええ、みんなドイヒー・・・!ぼくちん晴れ舞台なんですけど・・・?!」


それでも、レイジをこれからも、頼む。と、彼らの言葉に、泣きそうになったのは、僕だ。本当に、3人とも、素直じゃない、だけど、誰よりも最高の仲間たちだった。
最初は、どれだけ歯車がうまく回らなかったか、何度も何度も何度も、数えきれないくらいぶつかって、やっと形になって。そして、そこから、確かな絆を深めてきた。彼等と紡ぐ音楽を、これからも沢山の人に届けていきたい。僕にとっての、変わることのない大切な夢であり、未来だった。彼等の晴れの日にも一緒にすごしたいほど、大切な存在。祝われることが、こんなにうれしいとは、思わなかった。


「おめでとう、れいちゃん、なまえ。」


最後の最後に、姿を現したのは、リンゴ先輩とともだちだった。おめでとうをすんなり伝えるリンゴ先輩に手を引かれ、僕やなまえよりも、大泣きをしていたのは、ともだちで。言葉にならないおめでとうと共に、なまえの胸に飛び込む。
大人びたシアーなマーメイドスタイルのワンピースに合わせたメイクは、台無しになっていた。隣にいるのが、彼女のパートナーであるミューちゃんじゃないのは、今日の日が特別だからだと本人たちから後で聞いた話。
いままで、事務所のみんなとひとりひとりハグをしてきたけれど、彼女とのハグはちょっと特別だ。僕のタキシードまで汚さないでよね、なんて憎まれ口を叩けば、それに、クリーニング代払ってやんないわよ、と返ってくる。僕たちはずっとこうだった、今までも、そしてこれからも。


「ありがとう、ともだち。」


キミがいなかったら、この日はやってこなかった。キミが、僕たちをつないでくれた。それは、きっかけにすぎなかったと言うけどさ、きっかけがなければ、僕たちは出逢うことすらなかったんだ。いつも僕の背中を押してくれて、ありがとう。

思えば、ともだちよりも、僕たちのゴールインの方が早くって。結婚という形をとるのは、彼女たちには、まだ違うらしい。わたしは何かを背負えるほど大人になりきれないの、という彼女も、もう30歳を迎えていたけれど。でも、僕が先を行くだなんて正直、思ってもいなかった。
結婚は、相手を絶対に幸せにできるって確証がなければ出来ない、と語る彼女が言うように、僕自身も、それには半分くらい賛成だ。半分というのは、確証がある必要はないと僕は思うから。互いに、誰よりも相手を幸せにしたいという気持ちがあれば、いいんじゃないかな。
結婚というものの形はひとそれぞれ。この先に不安がないといえば、うそになる。自分は、完璧なんかじゃない。だからこそ、大切なパートナーがそばに必要で、僕の場合は、それを法的に約束したいと思った。完璧じゃないからこそ、これから沢山の壁にも出会うだろう。だけど、それすら、彼女と共に乗り越えたいと、そう思うんだ。


世間の自粛ムードは、まったく終わりを迎える様子がない。
未だかつてないくらいに時間の空いた僕と、リモートワーク真っ最中の彼女。毎日一緒に過ごすことが苦痛になるカップルもいるらしいけれど、僕たちは順風満帆だった。むしろ、この時間がありがたいくらい。


「こうやって、すぐ好きが増えちゃうから、困ったなあ。」
「もう、何言ってるの。」


僕の言葉に、少し照れたような顔が返ってくる。どれだけ伝えても、飽き足りないくらいの愛おしいが、毎日止まらないだなんて、考えたこともなかった。今では、それが当たり前で、失うことのほうが怖い。
女性は、愛が一番必要。これは、古今東西変わらない真理らしい。そんなの、僕にとっては、彼女に愛をめいいっぱいおくる都合のいい建前だね。特別すぎる愛を、ずっとキミに送るよ。愛してると、キスを落とした指を握り締める。


「離して、って言われても、離せないかもね。」
「それは、わたしもよ。」


くすくす、と笑う彼女が、また更に愛おしくなった。




Love makes me ...
(これまでも、これからも。変わらない愛を歌い続ける。)







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