03



恋愛ってのは、不思議なモノだと思う。
しちゃいけない、って分かっていても、気持ちはそれに反して大きくなったり。変なところでどきどきしちゃって、自分らしくなくなったり。
だけど、その感情がぜんぶ、マイナスになるわけじゃないから、やめられない。わたしも、そうだった。

色々なことがあって、ようやく自分の好きなヒトと結ばれることが出来たわたしが言うんだから、間違いないと思わない?寿も、なまえさんも、わたしの大きな遠回りを知ってるくせに。どんなキセキが重なったかも知ってるくせに。自分達の番は出来ないなんて、言わせないわ。
頭の中だけじゃ、絶対に解決しない。心が何より、素直になることを求めるもの。それが、恋ってやつであり、愛ってやつかもしれない。
わたしだってまだまだ、分からないことだらけよ。でも、アナタ達よりは、乗り越えてきたものがあるから、言えるの。(上からじゃなくって、対等な立場からの意見ね。)



「なんとなく、」


それを伝えた目の前の男は、一気に力が抜けたような顔をした。
生きてきた環境が違っても、価値観や中身が自分と良く似た友人だった。わたし達は互いを、マブダチと呼ぶこともあったし、だからって親友ってのはちょっと恥ずかしいから違う。なんていうか、すごく感覚が似ているからこそ、傍にいるのが心地いい存在だった。
とはいえ、わたし達が互いに惹かれあうかといえば、答えはノー。わたしは、自分や彼と真逆だと思う男性に恋をした。そして、彼も彼で、おんなじ。わたしとも自分とも真逆の女性に、好意を抱いたのだ。それは、恋で、間違いなかった。

ねえ、次は、アナタの番なのよ。
わたしの恋を沢山応援してくれて、わたしにばっかり付きっ切りだった世話好きで、自分のことより周りのことを考えちゃうアナタの番。これが結婚式のブーケトスなら、迷わずアナタに向かって投げつけるわ。その意味、分かるでしょ?
いつだって、一歩を踏み出すのは自分自身の決断なの。



「寿さんは、違うじゃない?」


そんな言い回しには、酷く既視感を感じた。
カミュに恋したときのわたしが、これは恋じゃない。なんて言ってたのは、きっと怖かったからなの。(らしくないでしょう、とっても。)
認めてしまっては、わたしの今までが壊れるような、してはいけないようなことをしている気がして。自分の気持ちと、向き合うことから逃げていた。
彼女が口にした言葉は、その時の自分に、良く似ている。ああ、もしかしたら彼女のことだから、自分の気持ちに気付いていないのかもしれない。
彼女は、どちらかというと、わたしの恋人に似ているものね。綺麗なのに、可愛くって、しっかりしているのに、そうじゃないところがあって。自分の感情に少し無頓着。
沢山の、”初めて”を見せよう、なんて歌詞を寿が書いた時に妙に納得したわ。わたしが好きになったヒトと、彼が好きになるヒトは似ている、と。(それは、ドラマ用に書き下ろしたものだったのに、どうしてもそれじゃない気がして。)


「ねえ、なまえさん。」


その呼びかけは、少し意地悪な声だったかもしれない。平然としようとしている彼女の心が平然じゃないのには、なんとなく気付いていた。
いま、何を思ってるんだろう。浮かんできた感情を否定しているのか、それとも、その感情すら浮かばないようにしているのか。どちらにしろ、このままじゃ、埒が明かない。


「恋って、頭の中、おかしくするの。」


だからね、最初は難しいんだよ。わたしの言葉に、赤くなった頬は、あの男への想いを肯定するよう。
意地悪なんてしてない、わたしはよーく知っていた。どれだけ、自分の想いに嘘をつくのが、苦しいのかも。どれだけ、自分の好きなヒトと想い合えるのが、しあわせかも。
だから、その可能性をつぶすこと、2人にはして欲しくない。自分の番から目を背けてちゃ、もう2度とやってこないかもしれないの。




(ねえ、カミュ。)(What's up honey?)(わたし達って、正反対よね?)(そうか?)(ほら、そういうとこ。)(そうだな...性格は同じではないか、好むものも一致はしない。)(でしょう?)(そもそも同じである必要はあるか?)(ううん。)(重要なのは、志の有無と、その向かう先だろう?)(そうね?)(そこが違えば、長い間は共に過ごせない。)(方向性が変わったら、終わりって、音楽バンドみたい。)(むしろ、お前の方向性は変わることがあるのか?)(軸はぶれそうにないわね、生憎。)(生憎、俺もだ。)(アナタはいつもわたしより先にいるんだから、追いかけるのが大変。)(大変?)(アー、だけど、凄く楽しい。先に進む理由がたくさんある方が、進みやすいもの。)(俺よりお前が後ろにいるとは思わないがな。むしろ、先に進まれているとすら感じる。)(だって、正反対だもの。だから、それでいいのよ、きっと。)(ああ、そうだな。)
Love makes me crazy.
(恋は人を、おかしくする。愛は人を、成長させる。)







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