06



後悔なんて、しないで欲しい。
自分の想いに気付かなかったり、それを否定していたり。余計なことをしていれば、いつの間にかは、意図も簡単に起きてしまう。
あまりにも悔しくって、頭がいかれそうになるさ。あまりにも悲しくって、前を向けないとすら感じて。でも、そんな気持ち、誰だってしたくてするわけじゃない。
俺がもっと素直になっていればもしかしたら、なんて、今でも考えるよ。過去は変わりはしないのに。
本気の恋は、一生でそう何度もするわけじゃないし、一瞬の判断が、大きく未来を変えてしまう可能性もある。俺には叶わなかったからこそ、繰り返さないで欲しい。
そんなことまでは、伝えるわけじゃないけど。2人を見ていると、酷くもどかしいんだ。



「アナタの番が来ただけよ。」


俺の言葉に、彼の表情は、くしゃり、とゆがんだ。笑ったはずが、上手く笑えなくって、自分の気持ちに嘘をつけなくって。
ああ、ここまでれいちゃんが、感情を露わにすることって、滅多にないんだろうな。
そう、彼は上手だった。自分の本当を隠すことも、色んな表情を見せることも。自分の感情に、嘘をつくことも。それが彼の立ち回り、それが彼のポジションとして当然の振る舞い。悪いわけじゃない、俺達の仕事では、むしろ必要なことだった。
無意識に出来てしまうからこそ、自分の感情に少し鈍いところがあるのは、ともだちとそっくりかもね。今のその顔、彼女が見たらどういうんだろう。ああ、いっそ彼女は一緒に泣いてしまうのかもしれないな。
誰かにとられたくない、という感情を彼女が見せた時のよう、彼の瞳は光っていた。泣ける程に好きなのに、その気持ちに嘘をつくなんて、して欲しくはない。
ああ、自分の過去を思い出すと、やっぱり悔しくってたまらなかった。



「じゃなきゃ時間を割いたりしないわ。」


ある意味、目の前の彼女は、酷く女性らしかった。恋をする女の子は、いつだって不安になるもの。どんな恋愛相談を受けてもそうだったし、周りからは女の子だなんて見られないともだちだってそうなった。(みんなが思うより女の子だってのは知ってるけどね。)
当たり前の不安を、彼女は受け入れられずに眉をひそめる。いつもはお姉さんをしているけれど、案外、自分のテリトリー外はそうじゃないらしい。ああ、それは彼女の友人であるともだちもそうだな。
泣きそうになった瞳をぱちくりさせて、俺を見つめた彼女は、随分弱弱しく見えた。泣いたって構わないけれど、俺の前で泣くような女性じゃないか。
恋愛事をしたことがない彼女にとって、酷くイレギュラーだろうが、それを乗り越えられないとは思わなかった。
素直になるだけで、いい。それが出来れば、軽々と乗り越えられる壁。出来ない、って駄々をこねるなよ、まるで過去の自分を見ているようで嫌なんだ。否定すればするほど、どうせ気持ちはあふれてくる。諦められるような感情なら、気付かなかっただろ?


「もう抑えられないんだから、そんな顔してるんでしょ。」


だから、素直になんなさい。俺の言葉に、彼女の赤くなった頬は、一粒涙を落とす。意地なんか張ったところで、何にもいいことはないんだ。
鬼、だと言われても、俺はちゃんと、伝えるよ。次は、アナタ達の番。恋愛だけがしあわせになる方法じゃなくても、折角気付いたものを諦めることはない。だって、諦めるほど苦しいものはないから。
これが俺に出来る精一杯だ。




(ハア、まったく。)(うわ、月宮がご機嫌ななめだ。)(別に。)(うっわー!なんでわたしにはそんな態度かなあ、その見た目でそのしゃべり方怖いからね?)(あら、文句でもあるの?)(いや、ごめんなさい。そっちのがやっぱこわいです、)(...お前等、世話が焼けるんだよ。)(お前等?)(ともだちも、れいちゃんも。)(まあ、なんたってわたし達やっぱ似てるから仕方ないわ。)(ばーか。)(いたっ、デコピンやめろ!)(ったく、誰のおかげだよ。)(それはもちろん、みんなね。)(だろ。れいちゃんは忘れすぎだ、俺達がいるってのに。)(でも、最後はちゃんと、自分の足で踏み出す勇気が必要なの。)(ともだちみたいに?)(少なからずね。)
Love makes me cry.
(その涙は、溢れ出した恋心。)







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