07



気付いてしまえば、早い。その通りかもね。
結局、ウダウダして言い訳をしてたって、どうにもなんないし。ともだちとミューちゃんみたいなレアケースは、なかなかない気もする。あれは、あの2人だから上手く行ったんだろうし。そう思っているのに、やっぱり僕は臆病で。
食事を誘う連絡すら、未だにどきどきするんだ。変な文章じゃないか、とか、誘ったら迷惑じゃないか、とか。むしろ、既読スルーされたり、いいや、未読スルーなんてことがあったらどうしよう、とか。
考えなくっていいことまで考えちゃって。勿論、そんなのが下手な杞憂で、事実ではないことくらい、分かっている。思考は具現化するって言うんだから、すべて上手くいってるって思うことがいいのもさ。
でも、やっぱり、恋愛ってのは、他と同じように出来るものじゃない。仕事じゃ上手く振る舞える僕でも、プライベートではボロを出さずにいられる僕でも、恋愛だけは、らしくない、って言葉が良く似合う。まるで、ミューちゃんがそうだったように。



「ミューちゃんは、何で、ともだちと付き合ったの?」


不意に僕の口から出たのは、あまりにも愚問だった。わかっているのに、口にしてしまったのはどうしてだろうね。
目の前にいた彼は、口づけていたカップをソーサーに戻しながら、呆れたような顔を返す。分かっていた答えでも、なんだか今は、それが聞きたかった。

どちらかというと、彼とその恋人は正反対。
ともだちは僕と色んな感覚や生き方、立ち振る舞い、好むものも似ているタイプだった。
そして、僕がいま、想いを抱く彼女は、僕やともだちとは反対、だと思う。むしろ、目の前にいるミューちゃん寄り、かな。
何でも出来そうなのに、そうじゃなくって。恋愛というものに、今まであまり触れたことがないとも聞いた。恋はしたこと、あるんだろうけどさ。(あ、なんかそれはそれで、ちょっとだけジェラシーかも、なんて。)
そう、やっぱり、目の前の彼に近いとこを持っている女性だった。ミューちゃんみたい、ってわけじゃないよ、モチロン!見た目よりも不器用なところ、とか、自分の想いに割と無頓着なところ、とか、かな。
ともだちが言う、彼の初めてが沢山貰えることがすごく嬉しい、ってのが、すごく分かるのは、なまえちゃんの経験が少ないからかもね。いままで、初めてって言葉に惹かれることは、こんなになかったのに、いまじゃ、ともだちがすごく嬉しそうに話す理由が分かる。
彼女が、初めてですよ、って言う度に、嬉しくって、次は何をしようかな、って考えて。余裕な顔なんて、本当は出来ないのにね。必死なんだ、僕も。


「随分と、らしくないものだ。」


ふ、と小さく笑われるのが、悔しかった。だって、恋愛でミューちゃんにそんな風に言われるのって、悔しいじゃない?
僕の方が色んな経験してて、オトナだって自信はあるのに、だ。おかしいな、こんなはずじゃないかったのに。唇を尖らせてみた所で、彼の反応は変わらずだった。


「そんなこと言うなら、ミューちゃんだってともだちのことになると、全然らしくないよ?」
「当然だろう、お前達に向ける感情と違うのだから。」


僕の言葉に、何一つの躊躇いもなかった。そうして、再度彼は甘くなったコーヒーに口づける。

ああ、どうしてこうも何事でもないように、言えるのだろう。らしくないことが、当然だと、そんな感覚、僕にはなかった。
らしくないってことは、それはみんなが求める僕ではないってことで、彼女からしてみれば、そんな僕に好意を抱いてくれるか、分からないわけで。
ミューちゃんの言うことは、わかるような、わからないような。
いいや、本当はすごくよく分かっているんだ。なのに、”らしくない自分”に不慣れすぎて。2人に見せて貰っていたことを、すっかり頭の中から消していたよ。


「それが選ぶ”理由”の1つでは?」


そう、かもね。ミューちゃんに気付かされるなんて、僕もまだまだ、だ。




(ミューちゃんってドキドキするの?)(どういう意味だ?)(いや、そういう感覚、人と違いそうだなあ、って思って。)(日本人はくだらんことを気にするな。人と同じかどうかは、重要ではない。)(いやまあ、そうなんだけどね。)(人にどう思われるのかの前に、自分がどうしたいかだろう。貴様は何故、恋愛事では、それが出来ないのか、不思議なものだな。)(ミューちゃんもあったでしょ、そういう時。)(...ふっ、そうだな。)(あーなんか、)(何だ?)(僕もこうなってんのかな、ってちょっと頭抱えたの。)(貴様は恋愛事になると感情が駄々漏れだぞ。)(ねえ、ミューちゃんにだけは、言われたくないよ!それ!?)
Love makes me Sweet.
(あまったるいコーヒーにも負けないほど。)







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