09



自分には必要がないと思っていた。
故に、その感情を抱くことはなく、抱いた時には、扱い方に困ったものだ。今では、こんなにも必要とする感情だというのに。

自分は、自分が思う以上に、貪欲だったらしい。手に入れてしまえば飽きることなく、それ以上を求めることになるとは予想外。今の自分を信じられないのは、誰よりも、過去の俺に違いない。
それ程までに、愛が人を変えることを知った。少なくとも、俺は彼女と出逢い、彼女を知り、彼女を愛することで、自分が変化している。信じられないだろう、だがこれは、事実だ。
くだらない、と思うのであれば、自分自身で体験するしかないな。この感情を表せる程、俺は表現力に長けているわけではない。ただひとつ言えるのであれば、言葉では足りない、か。
そう、文字通り、どんな言葉にしても、想いを伝えることが難しい。それが俺にとっての、恋愛というものであり、彼女という存在だった。



「ミューちゃんだってともだちのことになると、全然らしくないよ?」


俺の言葉が気に食わなかったらしい。それでも、それを直接口にすることはあまりない男だった。
冗談まじりに、むっとした言い方をして、口を尖らせるところは、自分の恋人に少し似ている。彼女も気に食わない時は、必ずこういう返しをするものだった。
何故、自分の恋人がするのと、この男がするのとでは、こうも感覚が違うのか。それは、あまりにも愚問だな。それぞれに持つ感情が違うのだから、当然だった。むしろ、俺がこの男に、愛らしい、などと思うことの方が、おかしな話であろう?

おそらく、らしくない、という言葉が嫌なのは、決まった自分がいるからだ。何故、自分がそれを気に食わないのかすら、寿は気付いていないが。
人にはそれぞれ、今までの生き方がある。自ら、寿嶺二という存在を作ってきた中で、らしく振る舞うのは、当たり前のことだっただろう。それは、俺も同じだった。
求められる自分を作っていては、自分の感情にいささか、無頓着にもなる。寿の場合は、幼い頃からのクセだろうな。この業界に長くいすぎた故の反動。無意識でその自分を作り上げれば、らしくない自分の感情には、気付かない。
らしくない自分でいることには、酷く違和感を感じるものだ。だが、恋愛とはそういうものだろう?自分が想う相手は、他とは違う。
だからこそ、愛おしいと表現し、他には感じない感覚を得る。きっと、らしくなくなるからこそ、自分の特別だと知るのだろうな。



「それ以前に、お前自身はどうしたい?」


話していて埒が明かない、と思ったのは、目の前の彼女は、あまりにも不明確だったからだ。
自分が、どうしたいのか、自分で分かっていない。であれば、どうしようもない。誰が何を言おうと、その言葉を受け入れることが、出来ないだろう。ゴールがないものを目指すに近しいそれを、意味があるとは思えなかった。

自分の言葉に少し曇った表情を見て、少しばかり後悔する。女性に対して、厳しい発言だっただろうか。生憎、言葉が上手い方ではないことを、自分でもよく分かっていた。
愛島の件を含めて、自分の恋人にも、アナタは言葉が足りないから勘違いをされる、とは言われるが、もしここで言わなければ、彼女は見つけられないだろう。そして、自ら気付かねばならないのだ。
早く前に進む必要は、ない。ただ、どこに進むかを明確にしなければ、結局堂々巡り。そうして、人から見ると理由のない悩みを繰り返す。
ああ、日本人は、どうやらその決定が、如何せん弱いらしいな。決めてしまえば、容易いことだというのに。


「未来を変えたいなら、それを決めればいいだけのこと。」


そう、そうしたから俺達の未来は、変わった。
お前達も、同じだろう?




(ミューちゃんって、案外嫉妬しいだよね、)(わたしもそう思いました。)(なんだ?)(何だかんだともだちが他の男のヒトと喋ったりするのやでしょ。)(どうだろうな、気分がいいわけではないが、嫌なわけではない。彼女が望むなら、構わん。)(それは、妬いてるってことでしょう?)(いや?違うな。自分以外の男をそういう目で見ていないのは分かっている。)(そういう問題じゃなくってさあ〜。 なんで僕ミューちゃんにこの間、気付かされたんだろう。くやしい。 )(どうだろうな?)(まあ、ともだちのがミューちゃんより絶対嫉妬しいだけどね。)(え、そうなんですか?見えないのに。)(うん。ライブに来ない理由知ってる?)(知らないです。)(妬いちゃう自分が嫌。だってさ。自分がこうなりたい、って理想が高いっていうか、なんていうか。)(それの何か問題が?)(そういうわけじゃないけどね。)(目指すものが明確になっているから、彼女には軸がある。そのような者に、人は集まるのでは?)(ともだちちゃんは、そうね。)(望めば、そうなれる。当然、お前もな。)(なまえちゃんだって人気者じゃない?)(そんなこと、ないですよ?)(じゃなきゃ、キミに人は集まらないさ。ともだちの友達ってのは、ただのキッカケ。そのキッカケが、次に繋がらない人だっていたよね、ミューちゃん?)(そうだな。)(人気者じゃない、なんて言わないで。なまえちゃんのことを好きなみんなが泣いちゃうよ。)(そう、ですね。気を付けます。)(んーもう、じゃなくって。)(そこは、ありがとう。ですよ、なまえさん?)(ともだちちゃん...、お帰りなさい。)(ふふ、ただいまです。わたし、なまえさんのことだいすきですからね?)(聞いてたの?)(うん、ちょっとだけね。)
Love makes me Sweet.
(何よりも甘く、愛おしい。)







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