12
バレンタインはすぐそこに迫っていた。
女の子達とバレンタインの会話をするくらい、させてちょうだい。いつも馬鹿みたいに男子生徒に混ざっていたりもするけれど、こういうところは恋する女の子ってやつだから。
アナタはバレバレだから名前を書いたっていいでしょう、なーんて周りからみんなに笑われる。そういう問題じゃないのよ、バレンタインカードに名前を書くのはセンスが無さすぎるわ。少なくても、マグルの書くバレンタインカードはそうだった。
「そもそも、ナマエってバレンタインにカードを貰ったことあるの?」
「1000人も生徒がいて1枚も貰えないのは、ある意味女として恐怖よ。」
「アナタのことだから、全く嫌味がなく素直な意見だろうけど、ホグワーツには男の子からカードを貰えない子だっているってことは、覚えておきなさい。」
アア!嘘でしょう、ニッキー?!そんなことって信じられる?!わたしですらカードをもらうのよ、だって。そりゃ、どう考えても、ホグワーツ中の女の子が貰ってるって勘違いするに決まってるわ。
「ナマエ、知ってる?殴り合いの喧嘩でカードはゲット出来ないこと。」
「残念ながら、知ってる。」
目の前のガールズは、呆れたような顔をして冗談めかしいことを言う。
そりゃあそうよね、なんて言ったって、男友達に女扱いをされちゃいない奴だ、わたしは。
そんなわたしのところにも、去年はカードが数枚届いていた。(本命は混ざってないにしろ。)
あとは、友達に出したのと同じ数のプレゼントも。明らかに送り主の分かるようなプレゼントばっかり。わたしの周りは、みんなして自己主張が激しいんだわ。
ちなみに、去年のリンゴのバレンタインプレゼントは、スリザリンカラーのクッションだった。どこで使えっていうのよ!と眉をひそめたわたしに、そのあと彼が口にした言葉が、お前の恋があまりにも進展しないから代わりに。だったのは、あんまりだったわね。
笑えないジョークをありがとう、リンゴ。今年は、お陰様でバレンタインカードをスラグホーンに送るわよ!
「ねえねえ、ハッフルパフの子達は一体どんなカードの送り方をするの?」
「特別に寮で送り方は決まらないわ、ナマエ。」
「ナマエさんは、スリザリンの方にカードを送るんですか?」
「ハルカ、いい質問ね?ふふん、送っちゃうことにした!」
わたしの言葉に、目の前の可愛らしい女の子は小さく悲鳴じみた声をあげる。
いやね?同じ女としてカウントされたくないくらい、別の生き物に思えるわ。アア、可愛いってことよ、つまり。彼女は何枚カードを貰うのかしら、机の上からカードが落ちてしまうんじゃなくて?
もしスラグホーンの好きな女のタイプがこうでも、わたしはこんな女性になれる気はしなかった。ただ、もしそうなら、自分に彼の気持ちを向ける努力は、更に必要かもね?根気がいるくらいには。
でも、知ってた?1年も彼の視界に入らずに片思い出来る女なの。みんなが思うより、ずーっと、諦めは悪い。彼のタイプなんて、しったこっちゃないわよ。って、もし不安があったとしても、みんなにはそう言える女性でいさせてほしい。
「なあに?」
じっと視線を向けられていて気付かないほど、鈍感な女ではなかった。ハルカの奥側にいた男の子は、初めて見る顔。ブルーのタイは、ハッフルパフではなく、レイヴンクローの生徒だった。
あまり表情の変化がなく、わたしが話しかけても、すぐに反応はしてくれない。アナタに声をかけてるのだけど、ミスター?瞳をしっかり合わせて言葉にすれば、ようやく彼は口を開く。
「僕にだった?」
「熱い視線をくれた気がしたのは、気のせい?」
「安心して、ただの興味だ。」
「安心して?それは流石に分かってるわ。」
「変わってる女がいる、っていうのを聞いたから、キミのことかと思って。」
いやね、一体それ、誰に聞いたの?
そして、変わってるってのは、褒め言葉として受け取るオンナだってこと、知ってる?
「元を辿れば、カミュがクリスマスの時に、変わった女がいる。って、パーティで口にしていたんだけど。彼をよくよく観察した結果、ランマルの言う変わった奴とも一致するキミが、彼の言う変わった女だろう。って、それが僕の中の結論。」
淡々と言葉を紡ぐ彼には、1度ストップを口にした方が良さそうね。
だって今、スラグホーンのことを口にしたでしょう?アナタ、それがわたしの想ってる人だって、きっと知らないのよね?
いくらわたしでも、どこのだれか知らない生徒に、自らそんなことを暴露する趣味はない。ひとまず冷静に彼とは話をしなければいけないわ。
「どう?間違ってる?」
「スラグホーンに変わってる、なんて言われたことがないから、答えようがないわね。」
「そう?理解できない、って言葉を口にされるのは、つまりそういう事だと思うけど。」
アナタ、一体どこから会話を聞いていたの。そう口に出さざるをえない。
誰かと会話をする時、周りに対して自分が意識をしていなかったことは認める。でも、まるで隣でいたみたいに会話を繰り返されると少し気恥しい。
キミって、もしかしてカミュのことが好きなの?そう言われた瞬間、誰に言われるより顔に熱が集まった気がする。
もう慣れたものだと思っていた。自分が彼を好きだって言うことも、誰かにもてはやされることも。恋ってのには、さして心を乱されるわけじゃない、ってね。彼と出逢った最初の頃のドキドキってのは、無くなっていたように思うけれど、この男の子のせいで、どうにもおかしな反応を、見せてしまった。
「ナマエ、顔が真っ赤よ。」
「お願い、それを言わないでちょうだい。自分でも驚いてるわ。」
「あら、可愛いと思うけど?」
「アメリア、何言ってるの。」
自分が思ったより、女の子だって反応をしたことも、自分が思ったよりもスラグホーンを想う気持ちが増えてることも、びっくりした。そして、それを見ず知らずの男の子に気付かされたことが、何よりの衝撃だ。
冷静になるには少しだけ時間がかかって、火照った頬が収まるのにも、何度か大きく息を吸ったり吐いたりした。
「カミュは恋愛ってやつに疎いから、キミも苦労はするだろうね。」
「そうかしら。それくらい、可愛いものだわ。」
わたしの返答が、彼にとっては理解できないらしい。どうして?と、答えを求める彼は、小さく首をかしげる。
だってね、
彼を好きになった時点で、わたし達には大きな差が沢山あった。
わたしはマグル出身で、彼は純血主義。わたしはグリフィンドール、彼はスリザリン。わたしは能天気で馬鹿な女、彼は真面目で冷静な男。わたしは付き合いが広くて、彼は付き合いが狭い。
その差は、いくらでも諦める理由に出来たかもしれない。彼の視界に入ることのない1年間、なんにも出来ずに見つめるだけの時期があって、それでも諦められなくって、行動に移すことを決めた。
一歩踏み出すことを周りが後押ししてくれて、わたし自身も勇気を出して。そうしてそこから始まった彼との会話がある。何にも前に進む会話じゃないかもしれない。少しだけ彼を知って、自分を知ってもらって。でも、見ているだけじゃどうにもならないことを知った。
自分から行動しなきゃ、彼との関係は変わらない。彼が恋愛に敏感だろうが、疎かろうがどちらでもいいのよ。正直、どちらでも変わらない。わたしが行動しなくっちゃ、得るものはいずれも、ゼロとゼロ。わたしが行動したら、片方のゼロがどれだけ化けるか分からない、ってだけ。
苦労なんて、元々分かってた。それでもいいから、わたしはこの恋を諦めたくなかった。彼の理想の女になろうとは思わない。だけど、彼に見合う女にはなろうと思う、わたしの方法でね。自分を彼の好みに変えるわけじゃなくても、わたし自身を成長させることは必要だと、そう感じてるわ。
それは、彼のためだけじゃない。わたしが未来に進むためにそうだし、たまたまそこに彼って理由が重なっただけ。好きになってしまったのだから、自分が諦める瞬間まで、やってやるわよ。
「それが、キミの恋の仕方ってやつ?」
「ううん。これが、わたしの生き方ってやつ。」
「ふーん。面白いね。」
「恋に生きるんじゃないのよ、だってわたしはわたしのために、生きてるの。そこに、彼って一つ理由が重なっただけ。」
アー、ハルカ?拍手は必要ないわ?演説をしたわけじゃないのよ?
わたしからしてみれば、ほかの寮の方が不思議な子が多い気がするけど、これはちょっとした感性の違いってやつかしら。
(ハルカはそういうコいないの?)(ええっ、私ですか?)(アナタ以外にハルカっていた?)(いない、です。でも私、ナマエさんみたいに想える人なんて...。)(ハルカ、ひとつ言っておくけれど、彼女みたいなケースはレアだよ。変わっているもの。)(あら、ダメ?)(そうじゃない。キミみたいな生き方を、ハルカをするのは不思議だって思っただけ。)(何よ、どんな生き方だって自由でしょう?選ぶのは、アナタじゃなくってハルカよ。)(ハルカは、こんな風になりたいの?)(えっと...選べるのなら、そんな生き方は素敵だなと思います。)(僕は今、耳を疑った。)(ちょっと、喧嘩売られてる?!)(やめなさい、2人とも。)(だってアメリア、聞いた?今のは流石に、ひどくない?!)(相手は1年生よ。)(関係ないわ。)(大人げない。)(そんなことないもの。)(スラグホーンの隣のオンナってそんなことで食いつくもの?)(アー、アメリア。)(なあに?)(アナタ、たまにひどいわよね?)(アナタが扱いやすいってことは理解しておいた方がいいわね?)(変なの。)(なあに。)(カミュの理想のオンナになる気はないんでしょ?)(ええ、そうよ。)(だけど、カミュの隣に立つなら、って言葉には弱いんだ?)(だって、隣に立つんだもの。)(どういう意味?)(彼の好む女は知らないけれど、周りから見たときに、わたしが理由に彼を否定されたくないってことね。)(分からない。)(分からなくってもいいわ。わたしが、分かっていればそれでね。)(ミカゼ、無駄よ。彼女は、こうなの。)(素敵でしょ。)(自分で言う?)(誰も言ってくれないからね?)
back/top