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ロンドンの街のバレンタインを知ってる?街中がピンクや赤に染まるの、ロマンチックよ、とっても。
恋人同士がプレゼントをしあったり、匿名でカードが届いたりする。ホグワーツじゃ、ロンドンのようなラッピングはないけれど、毎日同じ時間に届くフクロウ便の数は、どんな日よりも多いと思う。

今年で3回目のバレンタイン。3年生にもなれば、おおよそ1000人いる生徒からも、ぼんやりと自分の存在は把握されるものだった。クィディッチの選手は勿論、ほとんどの生徒が知っているし、外見が目立つ男女や、わたしのような他の寮とも関係なく交流のあるタイプも、知名度が高い。
同じグリフィンドール3年生には目立つメンバーが多いこともあって、今回のバレンタインには、山積みのプレゼントが届いていた。わたしの両隣にいたレイジとランマル、そして目の前のジョージとフレッド、その横のクィディッチの選手のものを、自分と比べると、その数に愕然とする。

「なんでアナタ達ってば、そんなにプレゼントが届くのよ?」
「そりゃあボク達が人気だからね!」

そうにやついたレイジに、ホットチョコレートを頭からプレゼントしたい気持ちになったのは、わたしだけじゃあないはず。
いい?男子諸君、やるなら許可する。

「ま、でも今年の一番は、レンね。」

桁違いのプレゼントを机に広げているのは、今日が誕生日だっていうレン・ジングウジ。2年生の彼は、女生徒から大人気だ。
女性に対するエスコートも上手ければ、甘いセリフを恥ずかしげもなく口にするのが得意で、血筋は純血のお家柄。休みの日はいつも、仕立てのいいオシャレな私服を着こなし、他の寮の女の子とデートしている。そして、性格が曲がっているわけでもなく、同じ寮生には、面倒ごとは苦手だからね、とうまく距離をとるスマートなタイプだった。
あまりの数のプレゼントは、ひとつひとつそれに目を通す彼の気持ちを考えるだけで頭が痛くなりそう。しかも、彼、甘いものが苦手だなんて信じられる?もし仮にあれが全部チョコレートであって、かつ、わたしが彼ならソッコー死ぬわね。

「ナマエ、僕にプレゼントは?」
「俺には?」
「俺達もまだもらってないだろう?」
「まさか忘れてねぇだろーな。」
「ねえ、なんの嫌味なの?その山の中に、入ってるのよ!ちゃんとね!!」

埋まってしまったわたしのプレゼントが、泣いてる。
プレゼントの量で張り合ってた4人は、結局、ランマルが一番だったみたいで、とりあえず女のコ達の趣味は疑っておくことにした。アナタ達がプレゼントやカードを贈ったその男、わたしにテメェの男の趣味はどうかしてるって言うほどデリカシーはないわよ、それでも人気のランマル・クロサキって男は末恐ろしい。
ってことは、スラグホーンはもっとすごいことになっているのかしら。

ひらり、目の前でフクロウが落としたカードをキャッチすれば、お見事、自分宛のものだった。自分でカードを貰えないオンナがいない、なんて言ってしまった手前、貰えなかったらどうしようってのを考えなかったわけじゃない。
いや、貰えるんだろうな、とは思っていたのよ。だって、レンってプレイボーイが、カードをくれるってわかっていたもの。綺麗に綴られた字に、ありがとうを彼へ伝えると、それは俺の出したカードじゃないよ、と笑われる。

「ナマエサンのことを好きな男が、不憫だね?」
「あらやだ!わたしが知らない人かもしれないじゃない?」
「お前のことを知らずにカードを贈る変わった奴は、いねぇだろ。」
「ちょっとランマル、どういうことよ。」

バレンタインの朝から、フルーツやマシュマロが舞うのは、許してちょうだいね、グリフィンドール生諸君。チョコファウンテンの近くにわたし達がいないのは幸運だわ。
3年目にもなってくると、わたし達のやり取りにもみんな慣れてきたものだし、彼等のプレゼントの量にだって誰も驚かなくなった。むしろ、毎年増えるだろうってのは、みんな予想済みだったみたい。
驚いているのは唯一、新入生達だけかも。

「わあ、ナマエのテーブルはプレゼントだらけだね!」
「ハリー!ナマエ宛のカードがないことは言うなよ!」
「ロン?わたしだってカードを貰えてるわよ?!」
「ロンってばデリカシーがないんだから!この落ちてるのは、ナマエ宛じゃない?」
「ありがとう、ハーマイオニー。」

マゼンタカラーのいかにもバレンタインに相応しいカードを、ハーマイオニーが拾い上げる。
丁寧な白い文字でわたしの名前が書かれたそれを受け取れば、見覚えがないのか?とジョージとフレッドが両サイドから顔をだした。いったい何の話?わたしが怪訝に尋ねても、彼等は意地の悪い笑みを浮かべたまま、答えてはくれない。
開いた中には、アナタの恋を応援しています。とだけ。イニシャルも無しのとってもシンプルなカードは、誰からのものかも分からなかった。

「ドラゴンでアイツは頭がいかれてる。」
「なによ?ドラゴンって?」
「これ、チャーリーの字だ。」

わたしが机に置いたカードに、ぽつり呟いたのはロンだった。
うそでしょう、まさか。ジョージとフレッドの瞳を相互に見比べれば、まだカードを贈ってくるなんて信じられないな?と2人して笑い声を上げた。笑いごとじゃない、机に自分の頭をぶつけそうになったのは、何回目だったかしら。3度目だ、って冷静に言わなくっていいのよ、ランマル。

「カードでまで好きな女の恋路を応援するのか?」
「チャーリーっていい男なのにさ、なんでここにいっちゃったかな。」
「聞こえてるわよ。」
「聞こえるように言ったんだ。」
「アナタに言われなくっても、わたしだってそう思ってる。」

ちょっとだけずるい、って思うのは、カードの中身がわたしの恋を応援してくれるところだった。チャーリーも、わたしの諦めが悪いのは分かっているみたい。
ここにいるみんなが言ってた、チャーリーに想われてるって言葉が、恋愛的なもので間違いがないのであれば、いっそ言葉で伝えてくれたっていいのに。それは、まるで避けるみたいなのよ。何にも言われていないわたしがわざわざカードを断るのもおかしな話だし、彼にわざわざ確認を取るのも変。勝手にわたしだけが、気まずい思いをしている。

「なあ、どうしたらチャーリーに振り向いてやるんだ?」
「どうしてわたしの恋を大前提に忘れてるのよ、アナタ達は。」
「そりゃあ俺達からしてみれば、」
「クソ純血主義のスラグホーンより、」
「自分の兄貴の方が、数千倍いい奴だって、知ってる。」

本人には決して言わないだろうことを2人は交互に口にして、わたしの両隣へ腰を下ろした。
アイツは、カードの一つだってよこさない。会話だってユーモアの欠片もないだろ?わざわざ言いはしないけれど、グリフィンドール生はみんな思ってるさ。キミがアイツを想うのを悪いなんて言うつもりはないし、ソリャア叶ったら俺達だって嬉しい。ただ、キミがそこまでする価値のある男かどうかは、俺達は知らない。
ピンク色のグラスに入ったチョコレートジュースは、2人同じタイミングで空になる。彼等の言葉に、わたしの表情は、硬くなったに違いない。
今、彼等が口にしてくれたのは、きっとグリフィンドール生の多くが思っていることで、かつ、ここにいる友人達があえて控えてきた本音だった。

誰の評価より、わたしが見た彼の評価を話す必要があったのかもしれない。
そりゃあそうだ。端から見れば、わたしがしているのは、相当難しい恋だし、続ける必要があるかと言えばそうじゃない。諦めてしまった方が時間の無駄じゃないかも。
もっといい人だって、いないとは言い切れない。ただ、彼だってわたしの感性が言ったの、感情だけで選んだわけじゃなかった。その時に動いたのは、間違いなく感性だった。つまるところ、これは、直観なのよ。
頭を使って考えることより、閃いたことの方が上手くいく。直観を大切にしない人間なんて、絶対に上手くいかない、それをわたしはどうしてか、昔から知っていた。だから、この恋は、自分が納得するまで、終わらせちゃいけないの。
結果がどうであれ。彼は、わたしにとって、必要があって恋をした人。

「ナマエ、別に俺達はキミの選択を責めてるわけじゃないさ。」
「分かってるわ、本当に間違った選択だったらアナタ達は言ってくれるもの。
ただね、スラグホーンだけは譲れないのよ。他の子に取られるのも嫌になっちゃいそうなくらい、初めて人に渡したくないって思ったわ。」

彼のことを諦めたら、ずっと後悔する気がした。だから、諦めたくないし、元より、やらずの後悔だけはしたくない性分なオンナなの。
滅多に恋なんてしないわたしだから尚更、これくらいのワガママは最後までさせてちょうだい?もし、上手くいかなくっても、それはそれ、これはこれ。だって、スラグホーンのためだけに何かを頑張るわけじゃないから。

「俺達、キミのワガママってやつに弱いんだぜ?」
「ええ、知っているわ。アナタ達が心配性だってのもね。」

わざわざ、バレンタインってハッピーなイベントに、アナタ達がわたしに向き合ってくれたことが、どれだけの意味を持つものか、分かっているわ。仲間だからこそ、必要なの。

シリアスな空気には、ならない。これは、わたし達が前に進む上で、大切な時間だった。グリフィンドールのみんなは、ちゃんと分かってくれている。みんながじっと、わたし達を見つめるのは、そのせいだった。
意見を言い合って、受け入れたり、話し合ったり、そうやって、前に進んでいく。
だから、仲間って最高よ。

「アーもう!僕たちだって一緒なんだから!」
「達って、まさか俺もいれたのか?」
「あったりまえでしょ!ランラン!」
「分かってるから落としたプレゼントは拾って、レイジ。」

バレンタインデー。
世界中の男女が、気持ちを伝えあう最高のラブイベント。わたし達にとっては、仲間を深め合う日にもなるかもね?
ハーマイオニーが、アナタ達って最高だわ、と今日一番の笑顔をくれたのは、わたしにとっても最高のプレゼントだった。そうなの、わたし達って最高でしょう?




(バレンタインか?)(ええ。)(貴様のカードの量はひどいな?)(暇なんでしょう、きっと。送り主のないカードほど厄介なものはありませんよ。)(俺には関係のないイベントごとだ。)(そうですか?アナタにも届いていますが?)(物好きな奴もいるな。)(そうですね、その物好きは向こうのテーブルで騒いでいる。)(何だ、送り主が書いてあるものが?)(いいえ、アナタのカードも全て無記名です。―まさか気付いていないとは、彼女も不憫ですね。)(彼女?なんの話をしている?)(いいえ。こちらの話です。)








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