14
バレンタインというイベントがとっくに過ぎ去って、イースター休暇が迫った土曜日。
【次のホグズミードは三本の箒に集合】
リンゴから先日届いたフクロウ便には、そう記されていた。ホグズミードに到着して早々、周りのお誘いを断ったわたしは、三本の箒のドアを開く。
ホグワーツでかわい子ぶるリンゴなら、マダム・パディフットの店を指定しそうなのに、どうやら彼は鬱憤が溜まっているのかもしれない。三本の箒はナイスな店だけれど、彼が指定するには、ちょっと普段通りではなかった。
「リューヤも一緒なら、マダム・パディフットの店は無しね?」
「そりゃそうだ。」
目の前で笑う彼は、ハッフルパフ5年生のリューヤ・ヒュウガだった。リンゴとは昔から馴染みがあり、今はクィディッチのキャプテンをしている。ポジションはキーパーで、試合になれば毎回、女の子から黄色い声援を浴びていた。
ブルーのチェックのシャツを羽織り、同系色のデニムを着こなした大きな体。こんなリューヤが、マダム・パディフットの店にいるのは、確かに違和感しかない。わたしの頼んだバタービールがそろったところで乾杯した彼のグラスは、一気に空になった。そんなに一気に飲んだら、頭がいかれそうだわ。
一方のリンゴは、いつもの可愛い女の子の格好は無し。年頃の男の子と変わらない、カジュアルな格好をしていた。おんなじイタリア製であっても、レディースのノーカラーコートじゃないし、シフォンドレスでもない。今日の格好だったらバタービールを手にしていても違和感がなく、三本の箒にいるのだって普通に見えた。
「ところで、どうしたのそんな格好して。」
「たまにはこんな格好もするさ。いい男2人に囲まれて、よかっただろ?」
そう言った彼は、バタービールに口づけた。自分で言ったら台無しよ、それ。
もちろん、彼等がバレンタインには凄い量のカードとプレゼントを貰っているのを見れば、人気があるってことはよく分かる。確かに、特定の女性がいるわけじゃない彼等、特に、リューヤのことを好きな女子生徒には、にらみつけられてもおかしくはなかった。
同じ寮ならまだしも、彼の場合はハッフルパフ。いくらわたしが寮の違う生徒と交流が多いとはいえ、それをよく思わない生徒が、少なからずいるのは、事実。特に、リューヤの場合は、かなりの人気者だ。
だけど、本人は全くそんなことを、気にしちゃいないらしい。何言ってんだよ、とリンゴの言葉すら軽くあしらってしまうところも、女の子から見てみれば魅力なのかしらね。
ハッフルパフの生徒は、どの寮の生徒にだってウケがいい。わたし達の学年じゃ、一番のハンサムって言われているセドリックも、ハッフルパフの生徒だった。
片や、リンゴは女の子より、どちらかと言えば、男に人気がある。元々、男性的なハンサムと言うより、中世的な美形ってかんじだしね。そりゃ、普段から男子生徒と変わらぬ格好なら違うだろうけど、生憎、そこいらの女の子より見た目には小うるさい。
ああ、そんな言い方をしたら、怒られちゃうわね。自分にも他人にも厳しい、が正解。彼の寮はスリザリンで正解だって思う、どの寮よりその厳しさはピッタリだった。
「あれ?リューヤにナマエ?」
「お、セドリック。」
偶然にも三本の箒に入ってきたのは、わたしの学年一番のハンサム。
ちょうどいまアナタのことを考えていたの、というのは流石におかしな話なので、黙っておくことにした。ハッフルパフのシーカーをしているセドリックとは、ものすごく親しいというわけではないけれど、顔を合わせれば普通に会話をする間柄だった。
リューヤとセドリックが挨拶を交わす中、リンゴは大きなバタービールのグラスで、セドリックから逃げるように顔を隠す。そんないつもは見ないような、あからさまにおかしい彼を無視してセドリックに話しかけると、相変わらず人のいい笑顔が返ってきた。
また選択授業に、と彼は奥のテーブルに入った友達を追いかけていく。彼が去ったところで、ようやくリンゴが一息ついた。
「なあに?どうしたの?」
「アー、あれだ。リンゴの奴、セドリックに女だと思われてたらしい。」
「今更?!」
「ああ、今更。」
リューヤが苦い笑みを浮かべる横で、リンゴはわざとらしく眉をひそめる。
「だからこの格好?」
「それだけが理由じゃない。」
確かにリンゴは、女の子に間違われるくらい見た目に気を遣っているし、女のわたしから見ても、綺麗だと思う。憧れちゃうくらいにね。
そりゃあ、この見た目で、キャラクターも女の子より可愛いんだから、性別を知らない男子生徒から告白をされることもあったけれど、もうこれも3年目だ。流石に、3年目にして気付かないってのは、鈍すぎるわよね、セドリックってば。
「告白するまで気付かないって、アイツはどうかしてる。」
バタービールを噴き出したのは、仕方ないって言わせてちょうだい!
流石に、それは冗談でも驚くわ。他には言うなよ。と不機嫌混じりのリンゴには、頷くしかなかった。わたしの吹き出したバタービールは、リューヤが早々に始末してくれたけれど、知っていたアナタでも苦笑いなんだから、これくらい可愛いものよね?
「で、なんて言ったの?」
「そりゃあ、性別を勘違いしてるって伝えたに決まってるだろ。そもそも、リューヤが悪い。」
「アー悪い。まさか気付いてないとは、思わなかったんだよ。」
お手上げのポーズをするリューヤは、間違っちゃいないと思う。だって、可愛いって言わたところで、まさか男だって気付いていないなんて、考えつかないもの。
可愛い格好をしているとはいえ、リンゴがそうしている理由は、男が好きだからじゃない。目的のために、手段は選ばない彼にとっての、一つの手段だった。
(まあ、俺の話はいいよ。相変わらず、お前の想い人は、気付きもしないな。) (なんだ?カード、送ったのか?)(ええ。気付きもしないのに、ムダだった?)(勇気を振り絞ったんだろ?無駄にはならねぇさ。)(だといいけど!ってか、わたしですら、カードを送るのに、勇気を出してるんだから、アナタ達にカードを贈る女の子達もよ?)(まあ、なんだかんだ言って、差出人不明のカードは、誰からのものかは分からねぇ、ってことが多いんだよ。)(ハア...。こうやって大多数の1になるのがバレンタインの癪なところだと思わない?)(思わない。相手が気付こうが、気付くまいが、自分がカードを贈ったって出来事を、”点で見るのか線で見るのか”で結果は変わる。)(点と線?)(その一瞬だけを見れば意味が無くても、未来に繋げようとする意識があれば、それは線になる。逆に言うと、線に出来ないから、見落とすことが多いわけだ。そのままじゃあ何事も叶わない。マグルの家庭じゃ、教わらないのか?)(それは、ウチでいうところの、”過去は今、今は未来。今を変えなきゃ、未来は変わらない。”ってのに、相当する?)(少し似てるけど、違うな。)(魔法使いの家庭じゃ、そういう教え方をするのね。)(おいおい、言っておくが、お前達の家庭はイレギュラーだぞ?点と線も、今と未来も、家で教わることじゃないからな。)(だってさ。よかったな、ナマエ。普通の家に生まれなくって。平凡なマグル出身じゃ、ホグワーツでやってけなかっただろ?)(そういう意味では感謝してるわよ、家族ってものは学んでないけどね?)(ったく。お前らは3年にしちゃ、たまに行き過ぎた会話をしてるよな。)(違うのよリューヤ!リンゴが厳しいの、わたしに!)(お前は腑抜けだから、鍛えてやってるだけだ。)(だって?)(俺から言わせたら、仲がいいってことだろ。)(リンゴってば、素直じゃあないの。)(うるさい。)(ま、リンゴちゃんをしてるアナタより、そっちの方が好きだけどね。)
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