17
まさか年度末に、ハリーが襲われるなんて誰も思っちゃいなかった。例のあの人が戻ってきた、と叫ぶ生徒がいる中で、わたしはといえば、まったくなんの実感もわいていない。
だって、そうでしょう?
その時代にはまだ赤ん坊で、マグルの両親の元で生まれ育ったわたしは、その時代の恐怖を、ちゃんと聞いたことすらないのだ。これらの出来事を正しく理解するには、情報が、そして何より頭のキャパシティが足りない。
戻ってきたらどうなるか想像もしたくないと首を横に振って、今の生活があっという間に変化することを受け入れられない”わたし”がいることに、酷く失望したわ。わたしってこんなにも、臆病者だったのね。
医務室から帰還したハリーは、みんなのヒーローだった。寮の談話室で、もみくちゃになる彼を見て、気の毒に思ったのはわたしだけじゃない。2人掛けソファの隣に座ったレイジも感覚は一緒で、彼とわたしはハリーに話しかけるには至らなかった。まだ病み上がりのハリーに、ああも迫っちゃ可哀想だもの。
ロンやハーマイオニーから大体の話は聞いているし、ダンブルドア校長だって、偽りなく一件のことを話されているはず。
確かに、彼がどうやって、例のあの人と対峙したのかは、気にならなくもないけれど。わたし達にとっては、例のあの人の行方の方が、興味の対象だった。人に憑いてまで、自分の命を長らえさせる方法もイマイチ分からない上、体がないのに生き残るという概念も、マグル出身のわたしにはない。
全てにおいてピンと来ないのは、どうにもこの一件が、わたしの未来を大きく変えることに紐づいていないからなのかしら。
「でも、本当に例のあの人が戻ってくるなら、そうも言ってられない。」
珍しく真剣な顔をしたレイジに、わたしだって同じような表情になる。いつもみたいなふざけた空気は、どちらとも出さなかった。彼は、ハリーに向けていた視線を、わたしのほうにゆっくり向ける。
ブラウンの垂れた瞳が鋭くなることって、あんまりなかったわね。でも、これだけで、彼が本気でわたしに向かい合っていることは、理解できた。
「今のキミは、現実から目を逸らしてるように見える。らしくないんじゃない?」
ホグワーツで出来た最高の仲間たちは、たまに、言って欲しくない部分をついてくる。だって、そんなの図星に決まってるじゃない。
でもね、分かってはいるの。仲間だからこそ、彼等は向き合ってくれる。そうじゃなかったら、レイジはへらへら笑って、そうだね、って流すような人だった。そう、彼は全員に本気で向き合うタイプじゃない。彼の賢いところだった。みんなに同じじゃないことが、彼の中の平等なのだ。
「自分でも分かってるでしょ。」
「―分かってるわ。」
重々承知よ、だって自分のことだもの。自分のことが分からない、っていう逃げ言葉は、あいにく使えない。自分のことを分からないってことは、つまるところ、自分が自分と向き合っていないことだって、知っていたから。
そんなのは、3年間もホグワーツにいて、言えなかった。
「だって...未来が怖いなんて、言える?」
こうやって、不安に襲われるときの、自分の悪い癖だった。自分の不安に知らないふりをして、自分に不安って感情に蓋を閉じるのは。
見たことがない、聞いたことがないから、よくわからない。そう言っておけば、その不安から逃げられる気がした。そんな未来は分からないじゃない、って、目の前だけを見ていれば、暗い部分なんて霞んでしまう。
本当に大切なのは、未来のために動くことだとは分かっていても、それが出来なくなる臆病なわたしがいるのよ。嫌になるわ、自分自身で。まだ、こんな弱い部分を手放しきれていないだなんて。
「それって、言っちゃダメなことなの?」
「あいにく自分の弱さを人に認めたくはないみたい。」
「そう言うと思った。」
ばかだね、それは弱さなんかじゃないのに。なんてレイジは言うけれど、わたしはそう感じるの。自分の弱さを他人に認められることは、ある意味、強さなのかもしれないけれど。わかってはいても、できるのとはまた別。
「もう少し、僕等を頼ってくれてもいいんじゃない?」
「頼ってるわよ、ずいぶんと。」
ここにくるまでは、一人で生きなきゃいけないって思ってた。わたしは、マグルの世界じゃ変わり者だったし、あの頃は自分に自信なんてのもなかった。変わってることが誉め言葉だと思えなかったなんて、今とは全然違うでしょ?
自分らしくいるってのが分からなくなって、誰かの言葉に傷つくこともたくさんあって。何より、誰かを信じることが出来なかった。それが、ホグワーツに来て、いろんなことがあって。そして、少しずつ増えていった仲間のおかげで、自分は一人で全部が出来なくてもイイって知ったの。完璧じゃなくてもいいってね。
人生は、チーム戦。一人でどれだけ出来るかより、自分がどれだけ素敵な仲間に恵まれているかの方が、実は大事だったの。
過去のわたしから比べたら、ものすごく、人を信じられるようになった。誰かを頼ることもできる。そして、心から、人生を楽しめるようになった。
「―せっかくの人生、滅茶苦茶にされるのなんて、絶対にいやよね。」
「そりゃあそうだ。僕達の人生、闇の一つや二つでどうにかされたくない。」
「なに?二つ?」
「たとえ話だよ。そうであっても、諦めないでいたい、少なくとも僕はね。」
「アナタがそうなのに、わたしが諦めるわけ、ないでしょう。」
「ナマエって、僕のこと大好きだな〜。」
「それはわたしのセリフ。マネしないでちょうだい。」
アナタとだったら、闇の時代も、乗り越えられる気がしてる。
だから、自分の不安を受け入れることにするわ。アナタがいなかったら、気付かなかったことも多いし、出来なかったことも多かったわね。だけど、いつも、アナタに助けられるの。アナタにとって、わたしもそんな存在だと思いたい。
わたし達は恋人にはならない、だけど、最高の仲間。
(グリフィンドールがハウスカップで優勝?!)(信じられない、僕のほっぺつねっイタタタタッ!!!!!言い終わってない!容赦ない!どういうこと!!)(だって自分がつねって、って言ったのよ。)(アーナマエに頼むんじゃなかった。)(なによ、わたしのこと好きなくせに。)(キミだって僕のことが好きなくせに、そういうことばっかりする。)(アー、ナマエとレイジって、そういう、)(ロン。)(アナタの50点には感謝しているけれど、その勘違いはNGよ。)(ロニー坊やは、ああいうミスをするから。)(ああ、だからハーマイオニーにも、どやされる。)(そりゃあそうだろ、お前等の弟だからな。)(おいおい、ランマルどういう意味だい。)(俺達はああじゃないぜ。)(パーシーもああじゃないだろーな?)(ランマル!どういう意味だよ!)(さあな。)(ナマエ!)(ネビル!おめでとう、アナタはやっぱり最高のグリフィンドール生ね!)(あ、ありがとう!)(なになに、僕等の寮に最高じゃない生徒なんていたっけ?)(いるわけないでしょう、みんな最高だもの!)(ナマエも最高よ!)(ありがとう、アンジー?)(とりあえずグリフィンドールの諸君は、彼女の恋を応援すること!)(ちょっちょっちょ!大きい!声が大きい!!)(なによ、みんなもう知ってるからいいじゃないの。)(本人が!知らないの!!聞こえてたらどうするの?!!)(アー、それはそれでありね。)(なしです!)(でもさ、なんだかんだで、ナマエ。)(なあに?)(僕等って最高の仲間に恵まれてるよね。)(ええ。ホグワーツに入ってよかった、って胸を張って言えるもの。)(グリフィンドールでよかった?)(もちろん!)(みんな、ナマエがグリフィンドールでよかったって!)(あったりまえだろ!)(ったく、今更なこと言うなよ!)(あれ、ナマエ。泣いてるの?)(ちがうわ、うれしいだけよ!)(ちょっと!レイジ?!ナマエを泣かせたの?!)(んもう、泣いてないってば!)
back/top