05



3年生ってやばいと思う!
どうしてこんなに、レポートの数が多いの?どうしてこんなに、選択教科で死にそうなの?どうして、魔法史ってやつはなくならないの?とにかく、突然増えたことが多すぎて、ランチのメニューがどうだって言いあう時間もないんだから!

どう考えてもおかしい。去年の末に、チャーリーに相談して、選択教科をしっかり選んだはずのわたしですら、頭がパンクしそうだ。

上級生に相談することは、卑怯なんかじゃない。そんなことが思いつかないほど、周りに馬鹿が多いわけじゃないわ。上級生に聞けるものを聞くことが、ズルイって言うのは、頭を一度も使わずに生きてきた人の言葉でしょう?あら、少なくってもわたしも、わたしの周りも、当たり前のことを出来ずに、あとからピーチクパーチクされることは、不愉快よ。
上級生の知恵を借りてでも3年生は忙しいのね。と漏らしたら、廊下で純血主義のスリザリン生にうざ絡みをされてしまって、そう冷静に正論を返したの。
そうしたら、マグル出身のくせに!ってお決まりの文句を貰っちゃった。何よ、それしか言えないの?恥ずかしくない?そのマグル出身者にも思いつくことがアナタは出来なかっただけでしょう。
どこまで言っていいのやら。だけど、廊下でこんなことしているのは3年生になって恥ずかしいと思うんだから、わたしの感覚の方が彼女よりはいささかマシだって信じたい。

「スリザリン生が、そのような立ち居振る舞いを、恥ずかしげもなく出来ることの方が、疑問だな。」

自分の後ろから聞こえた声は、振り返らなくても、誰だかわかった。
そう、目の前の女が、彼のファミリーネームをわざわざ口にしなくても。
ちょっと待ってよ、振り向けるわけないでしょう!だって、わたしの顔、きっと真っ赤に決まってる。顔に酷く熱が集まっているのが、自分でも嫌というほど分かった。

真っ青な女子生徒と、真っ赤な女子生徒。どちらにしたって、周りから見たらおかしな光景だっただろう。
こちらには一度も顔を向けることなく、先輩の女子生徒にも真っすぐな意見をぶつけた彼。言いたいことがあるとしたら、アナタわたしの気持ちを知らずにしているなら、それって物凄くずるいわよ!ってこと。
冷静に考えて、ホグワーツで彼のことを好きな女子生徒なんて沢山いるに決まっていた。グリフィンドールにはいない?そうね、わたしが好きだとみんなが知っているからそうかも。
だけど、こんなこと目の前でされてみなさいよ、惚れない女がいると思う?わたしにとっては、どんな男より、今目の前にいる男が、格好良く見えたわ。自分に向けられる言葉が、一言もなくっても。その視線が、わたしに一度も向けられなくっても。



スラグホーンがその場を離れたあと、舌打ちをつくように消えていった女子生徒なんて、どうだってよかった。ただ、ずっと心臓がどきどきしていた。その場を離れることすらできないなんて。

「どうかしてるわ。」
「うん。どうかしてる、ホントに。」

ひょっこり、自分の隣から顔を出した彼は、とても呆れた顔をしていた。
さっきまで見ていたのと同じグリーンのタイ。長い髪をウィッグでセットし、女の子の制服を着こなしているけれど、立派な男の子だ。見かけによらず強い力で、ぐいっと体を引っ張られ、中庭に連れ出される。
リンゴ・ツキミヤは、同じ学年でスリザリン寮のわたしの友人。1年生の頃、女の子の格好をしている彼が気になって話しかけたのが始まりだった。その見た目に反して、実は意志が強く、どんな事をしてでも、求めるものを手に入れる主義。女性のようなところもあれば、男性のようなところもある。誰よりも、
そんな彼は、今日も相変わらず強引だった。

「さっきの、どういうこと?」
「どういうこと、ってわたしが聞きたいのよ...!」

眉をひそめたわたしに、ベンチに座り込んだ彼は、わざとらしい溜息を返す。
なんでわたしが、アナタに叱られているの?そう言いたかったけれど、ちょっとだけ口を閉じることにした。だって、リンゴのご機嫌が斜めなときは、理由があるのが分かっている。
いつもみんなの前で作ってる女の子みたいなキャラも、わたしの前じゃなし。心を開いてるんだって聞こえはいいけれど、厳しさも満点よ。

「お前、考えろよ。何のための頭?」
「少なくとも、わたしアナタよりも変身学と呪文学の成績はいいはずだけど、」
「そういう話じゃない。」

酷く言葉がキツイように聞こえるけれど、彼がわたしのことで、感情を高ぶらせているのを知っていた。
彼自身が何かあったとか、彼自身が何かしたとか、そういうのでは決して感情を露わにしない人。彼がわたしにこうやって感情をぶつける時は、必ずわたしに原因があるの。
だからね、ちょっとだけジョークを挟んだとしても、彼のことを否定は出来ないわけ。だって、彼ってば、わたしのために、叱ってくれるのよ?人のために本気になれる人が、友達にいるなんて、わたしの人生は捨てたものじゃない。

「何であの時、話しかけなかったんだよ。」
「それ程の勇気が舞い降りなかったの...。」
「ハア、グリフィンドール生が聞いてあきれる。」

ベンチで空を仰ぐ彼は、いつも通りスカートを履いていて、女の子みたいな見た目をしているから、その言葉にその格好は酷く不釣り合いだと思った。
彼にそうやって言われなくっても、何をしていたの?と、わたし自身に言ってやりたい。実際のところ、自分が自分と向き合わなきゃいけないのだ、本当は。

諦めたくないって言うのは簡単、諦めないこともわたしからすれば簡単。だけど、何か行動をしなきゃ、状況は何一つ変わらない。
ホグワーツに入ったとき、わたしには何もなかった。魔法界をよく知らないマグルが、待っているだけで友達が出来たわけなかった、待っていて誰かの心を動かすこともなかった。それとおんなじ。
分かっているくせに、恋愛は違うって言うのは、なしよ、ナマエ。そう、自分に言い聞かせる。

「次にスリザリンのテーブルに行った時は、話しかけないとだわ。」
「1年間進展がないのは飽きただろ?」
「そうね、飽き飽きしてる。」

前に踏み出すのは、どんなときも、勇気が必要。
でも、わたしはその勇気を持っている。自分の中に、そして、沢山の仲間が、わたしにくれるの。

「お前が自分を信じられない時は、俺を信じろよ。」

ほら、こうやってね。
最高の友達は、寮なんてのも、血だってのも、わたし達の意志一つで、すべて関係なしに作れるって、覚えておいて。



(あー、ねえリンゴ。)(なあに。)(ああ、もう!みんなの前だとそうよね!)(なあに?)(いや、どう思う、これってタイミングかしら?)(アラ、タイミングは自分で作るものでしょ。)(分かってるけど、答えて欲しい時だってあるじゃない!)(甘えるんじゃないわ。)(うっ...)(大丈夫、今は1人だし。移動にだって時間があるから。)(分かったわ、行って来る!...アー、ごきげんよう、スラ)(シンディ!今日は何しに来たんだ?マグル出身が俺達の前を通るなよ。)(ッ、ちょっと?!)(頭から雑巾を被ってるくらいが、マグルにはお似合いだろ?)(クソフリント!今日と言う今日だけは、許さないわよ!)(力で勝負しようってんなら負ける気はしねぇな?)(お!いいぞやれフリント!今日こそクソ生意気なマグルを負かしてやれ!)(ちょっと!やめてよ!ローブが破けるでしょ!)(買い換える余裕もないのか?マグルは大変だな?)(違うわよ!アナタ達と違って、レパロくらい出来るもの!)(おいおい、やってやれよ!)(男数人が、か弱い女生徒に恥ずかしくないの?!)(か弱い?)(女生徒?)(そこに疑問は何なのよ!?)(....先輩方は騒がしいですね。)(くだらないことをしている、スリザリンの恥か?フリント家も落ちたものだ。)(何だとスラグホーン?)(純血のみが入る学校は素晴らしいだろうが、現状では現実的ではないことを考えると、貴方達のその立ち居振る舞いはスリザリン生としてはふさわしくはないな。)(私も、彼の意見に同意ですね。少なくとも、貴方達が同じ純血ということ恥じますよ。)(クソッ!覚えとけよ、シンディ!)(何でわたし?!...まったく、何なのよ。)(ハア、貴方もスリザリンのテーブルに来ることは控えた方が良いのでは?)(でも、ここにだってわたしの友達はいるわ!友達に会いに来ることも許されないのかしら?)(少なくとも、歓迎はされないだろうな。)(それは、ごめんなさいね。)(あら、アタシは歓迎するわよ。どうしてナマエが、アナタ達に歓迎されなきゃ来ちゃいけないの?ここは、大広間で、あくまでテーブルごとに寮が決まっているだけ。アタシに文句があるのかしら。)(そういうわけでは...)(じゃあ、問題ないわね?カミュちゃんも、トキヤちゃんも、ナマエにごめんなさいしてちょうだい。)(いいのよ、リンゴ。彼等からしてみれば、平穏な日常をクソフリントとわたしのせいで壊されたんだから、そりゃあわたしが来なきゃいいって思うに決まってるもの。ただね、わたしがアナタと会話したい場合はどうしたらいいの?)(は?)(アナタよ、スラグホーン。)(特に会話することがないと記憶しているが?)(それでも、わたしはあるの。)(あーら、頷かないと、次のクラスには行けないかもね。)(ツキミヤ、それは合法的な脅しか?)(嫌なら嫌だって、言ってもらってもいいけれど?)(断る理由もない。好きにしろ。)(そう、ありがとう。...あと、以前もスリザリン生に絡まれていた時に助けてもらったのだけど、そのお礼もまだだったわね、感謝するわ。ありがとう。)(お前はスリザリン生に絡まれるのが好きなのか?)(いやね、何か言われた時にキチンと反発するだけよ。泣きつく程、可愛らしいメンタルはしていないの。それとも、アナタはそんなか弱い女の子が好き?)(は?)(ヤダ、そうだったらどうするの?)(うーん、相手の好みのタイプは興味がない、自分に惚れさせたい、ってのが理想の回答ね。)(理想ねぇ?)(何よ!いいじゃないの!って、もう行かなきゃだわ、またね、リンゴ。スラグホーンも!)(嵐のような人ですね。)(何だったんだ?)(アナタに惚れているのでは?)(ばかばかしい、ありえんな。)







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