あ。むりだ。そう思った。
自分と彼女の距離が近づくほど、好きになればなるほど。自分の中で、彼女の比率が大きくなるほど。自分でも、どうしたらいいか、分からなくなる。
最初は、ただの友達で。女だと思っているわけでもなかったのに。いつしか、その感情は、恋だと言われるものに変化した。自分と彼女が両想いだって知ったときには、ほんと嬉しくて、代わりに泣いてたデュースやグリムにも感謝したし、今でも、その気持ちは尽きない。

だからさ。離れたくないなんて。当然の感情じゃん?男は論理的だって言うけど、そういう問題じゃねぇから。自分の好きになった女が、この世界の人間じゃなくて、いつか、自分から離れるなんてこと、受け入れられるわけないじゃん。
その日がくることが、ほんとうは怖くて。深入りしないようにしても、だめで。むりだ、って。でも、思うくらいいいよな、本人に伝えないように努力はしたんだ。俺が無理にこの世界を押し付けたって、彼女がしあわせになるわけじゃない。そんなの、誰に言われなくっても、知ってたから。


「ごめんね、エース。」

来なきゃいいって、そうおもってた。結構、まじで。帰る方法なんてなかったんです、そう学園長が言ってくれたらよかった。だけど、そうじゃない。彼女に謝罪の言葉を口にされたくなんてなかったし、目の前で泣かれたくもなかった。でも、現実は、そうも上手くは行かない。
どんなに忘れようとしたって。お前じゃなきゃダメだって、周りにもわかると思うくらい好きでさ。だからこそ、「なんで。」って、問い詰めてしまったのは俺だった。
なんで、なんて聞かなくてもわかってるじゃん。知ってるじゃん、俺。なのに、問い詰めるなんて馬鹿なことをしたと思う。冷静になってからじゃ遅かった。答えを返せずに、ただ泣き崩れた彼女を抱きしめる。

「悪い。なまえにはなまえの世界が、あるもんな。」

アア、そう思ってるよ。それは都合のいい建前だとしても、多少は思ってる。でも、本音は、ちがう。お前が、この世界にいてくれたら、それだけでよかったんだ。
幼い子供のように泣きじゃくるなまえは、まるで、すがるように、俺の二の腕のジャケットを握り締めた。すがってるわけじゃない、そんなの俺の思い違いだ。そう思わないと、自分のカケラだけしか残っていない理性を踏み留められなさそうだった。

「選んじゃ、だめだと思って....!」

だけど、小さな唇からこぼれ出る言葉に、そんな理性なんてのは、儚く消え去る。

エースの世界を、選びたい。でも、わたしは、魔法も使えないお荷物で、どれだけ好きでも、これから先、どんな重荷になるかわからない。だから、選んじゃ、だめだって。ほんとは、エースといたいのに。

とぎれとぎれの音が繋がって。彼女の伝えたいことを理解するのには、時間なんてかからなかった。互いに、無駄な心配をしていただけで、ホントは俺たち、同じだったんだな。

「だめなわけ、ないじゃん。」
「でも、」
「でも、じゃなくて。なあ、なまえ。ちゃんと、言って?」
「ーわたしは、エースと、同じ世界で、生きたい...っ!」

その答えに俺が返すのは、イエスだ。絶対にがない世界で、絶対を叶えたいと思った。未来は分かんないなんて、言わせたくない。
だってさ、誰が、お前のこと見つめるの。誰が、お前を抱きしめるの。誰が、お前にキスするの。ぜんぶ、ぜんぶ俺だよ。俺じゃなきゃ、いやだよ。
お前も、そうでしょ?知ってる。だから、もう、この世界からぜってぇ返してやんねぇから。



sólo yo
(もう戻れなくっても。扉を自ら閉めたのは、ほかの誰でもない”あなた”がいたから。)







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