(≠監)



「クルーウェル先生の彼女って、めちゃくちゃ調教させられそうだよな!」
「確かに...。」
「ほう?貴様等には、躾が足りんようだな。」

仔犬どもを調教するにあたって、このような会話は、何度あっただろうか。人のことをイメージのみで捉えるとは、愚かな仔犬のすることだ。そんな自分の教え子へ、躾代わりにレポートの提出を命じたのは、今日のことだった。まったく、くだらないことに興味を持つ年頃だな。

自分の恋人が、自分に従順かと言われれば、NO。いや、従順なところもあるが、そうでないところもある、が正しい。
簡単に見せるくせに、実際のところ、簡単に理解できるような女性ではないし、明るく振る舞うその内側に、同じ程の闇も存在する。自らでその闇を処理する強さを持ちながら、少しばかり危うさを秘めるのも確か。
そんな、簡単ではない彼女を愛したのは、まぎれもなく自分自身で、そして、その彼女の愛を強く欲したのも、同じく、だった。

「それで?答えなかったの?」
「答える必要がないからな。」
「まあ、それもそっか。」

俺のベッドに転がった彼女は、くすくすと笑いながら、スマホ越しにこちらを見る。乱雑に放り出されたヒールをそろえろ、と彼女に言っても、完全に治るのは難しかった。彼女の気分次第といったところか。
そもそも、俺がいちいち気にするのも、いちいち直すのも、彼女からすれば、デイヴィスがそうしたいだけだもの。だと。まったく、随分な物言いをする。それでも、それを受け入れてしまう自分がいた。あまりにも彼女に染まっている、こんなのは、ひどく、自分らしくない。
そのうえ、ピンヒールを綺麗に並べた俺に、good boyを言うのだから、呆れ顔を返したくなるのは、仕方がなかった。

「デイヴィスのまーね。」
「馬鹿にしているのか?」
「ちがうもの、かわいいな、って。」

立ち上がろうとした俺の腕をぐい、と掴んで、そのまま離さない。自分の恋人に、かわいい、と言われて喜ぶ男はいないが、彼女はどうにも、かわいいがお気に入りらしい。何かあるごとに、可愛い、だ。かっこいい、と口にすることはほとんどなく、彼女曰く、男性に向けるかわいいは特別、だとか。それに納得してしまった俺も俺だな。
自らの靴をベッドサイドに並べ、そのまま、彼女を組み敷けば、彼女の指先からスマホが放り出される。ものを雑に扱うな、と何度言ったところで無駄なのに、それでも、そう言いたくなるのは、教師の性だろうか。

「ベスト、そのままでいいの?」
「今日だけだな。」
「ふふ、めずらしい。」

本来であれば気になることが、気にならなくなるとは、思いもしなかった。これは、ある意味、完璧を許さない彼女のせい。そんな俺を知ってか知らずか、彼女の腕は自分の首元に回された。

「誘ってるのか?」
「こんなので誘える程、簡単だった?」
「そういう時もある。」

覆いかぶさった俺の首に、甘く噛みついてくるのだから、躾がなっていないと言われるかもしれないな。



There are no prefect.
(ほんとは、優しくて、あまい。そんなわたしだけの、特別なひと。)







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