7月13日。それは、わたしにとって、特別な人の生まれた日。もう何度目だろう、彼の誕生日を祝うのは。
キミがいてくれればそれでいいのに、なんて毎年言ってくれるけれど、それはちょっと違うのよね。何もなければ何もないで、不安になるような人だっていうのもよくよく知っていたし、みんなが思うよりも案外、というか、かなり繊細だったりもする。いつも、太陽のように振る舞う彼の、そうじゃない部分。
だから、用意しないわけがないじゃない?わたしに彼がそうなように、わたしだって、彼にそうしたいの。


「おめでとう、れいじ。」

スマホのアラームは、0:00きっかり。小さく振動したそれを、パジャマのポケットのなかで止めて。ソファに座った彼に、うしろから手を伸ばす。ちょっとだけ驚いたようだけど、まさか、自分の誕生日を待っていなかった、ってことはないわよね。期待しないようにしてる、って知ってるわ。
ありがとう、と共に彼の首がこちらに向けられて、そのまま唇が重ねられる。リップ音と共に離されれば、目の前の彼は、穏やかな笑みを浮かべていた。わたしは、彼がアイドルをしている姿を沢山知っているわけではないけれど、アイドルの時にはあまり見ない気がするその笑い方が、なんだかすき。子供じみているかもしれないけれど、自分にだけの特別があるって、うれしいじゃない?
わたしの彼は、みんなのアイドル。それを、よくよく分かっている。それを、咎めることもできない。ほんとうは?って、そうね、本音を言うと、いい気持ちはしないわ。自分だけが彼を好きだったらそれでいいじゃない、と思ってしまうことが、ないとは絶対に言い切れない。でも、愛しい彼が、とっても大切にしている仕事を否定したくないし、何よりも、彼の背中を押せない女だとか、誰にだって、勿論自分にだって、言わせたくないわ。

「はい、プレゼント。」
「ありがとう、無くてもいいのになあ。」
「うそつき。わたしが欲しいんだから、嶺二だってほしいでしょ。」
「ンもう、そう言わせてよ。」

冗談まじりに言えば、ボクのメンツだってあるじゃない、と苦笑いが返ってくる。わたしとアナタとの関係に、メンツだなんて言葉、必要じゃないのにね。わたしは、相手と対等でいたいし、相手も守れる女性でいたい。けれど、彼は、男性が女性を守りたいという考えを持った人。だからこそ、こんな齟齬がたまにあるもの。
わたしのことをよくわかっているくせに、それでも、僕がキミを守りたいのだと、そんなことを真剣に言う彼も好きだった。互いに、こうと決めたことを譲れない質なのよね。
ソファの隣に腰を下ろすと、そのまま彼の腕がわたしの腰に回され、なんか年を取ったって実感ないんだよねぇ、そうやって肩に彼の頭が乗せられる。たしかに、年齢だけは誕生日が来るたびに増えていくけれど、自分達の思っていた30歳と、現状のわたし達は同じではない気がした。

「これくらいの歳には、もう結婚だってして、子供だっているんだろうな〜って思ってたのになあ。」
「全然ちがうけどね?」
「んー、ぜんぜん違うかもしんないけどさ。すごい幸せ。」

ぎゅっとわたしを抱く腕に力が入る。

「過去にどんな未来を想像してきたより、いまなまえといられるのがうれしいんだ。」
「それは、わたしも。」

彼の職業を考えれば、結婚という形をとるのが最善だとは思わなかった。それに、わたし自身も、結婚だけがすべてではないとすら思っている。それでも、すこやかなるときも病める時も、彼を愛すことを誓いますか、と問われれば、イエスをこたえられる自信があった。自信があるゆえ、形式にとらわれる必要がない、ともいえるわね。
彼の望む未来は、わたしだけが全てではない。それは、わたし自身もそうで。彼がいるからこそ、いまより先を目指す理由になったし、まっすぐ自分の道を進むことが出来る。互いに、互いの道を諦めることはないの。それが、わたし達の、選んだ未来。
ちゅ、と彼の柔らかな髪に唇を落とせば、くすくすと笑い声が返ってきた。

「王子様みたいなことをするね、おひめさま?」
「もう、なあに、それ。」

お姫様なんかじゃない、それでも、アナタがそういうなら、そうもなれる気がする。だから、恋って、愛って、ふしぎで。そして、くせになる。
今年のアナタとも、最高の一年をすごして、そして、これからも、ともに歩んでいきたい。

「今年もよろしくね。」
「こちらこそ。」

アナタが生まれてきた大切な日。おめでとう、そして、ありがとう。



07.13.
(どれだけ年を重ねても、キミという存在が、僕のとなりにいることを願わずにはいられないんだ。)







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