00-02.
ほんとうに自分の夢だろうか。これは。そう思ったのは、あまりにも自分の頭では考えられないようなはなしだったから。どこかで聞いたことがある単語でもない。そんな映画や漫画をみた記憶もない。じゃあ、どうして。と思わず口に出しそうになった。
男曰く、ここは、ツイステッドワンダーランドきっての名門魔法士養成学校ナイトレイブンカレッジ。
ワンダーランド?魔法士?なんて?ねえ、カタカナと漢字おおすぎない?そんな反応しかできない稚拙なわたしの頭で、思いつくはずがない。そもそも、ツイステッドやレイブンなんて単語、使ったことがなかった。いま手元にスマホがあったら、確実に意味を調べているだろうと、胸を張って言える。
え?は?なんて?と困惑するわたしを、何度も置いていくこの男は、ディア・クロウリーと名乗った。説明をしてもらえているはずが、ツッコミがおいつかなくって。逆に現実だった方が、すぐに諦められただろうに、これが夢だと理解しているからこそ、ツッコミを入れたくなるのが人間の性なのかもしれない。でも、そんなのも長くは続かなくて、途中ですべてを諦めた自分がいた。
「まあ、君は性別も年齢も多少前例がないですが、闇の鏡に選ばれたのであれば仕方がありません。」
「前例がない?」
「ええ。本来呼び寄せられるのは、16歳の男子ですからね。」
そう告げるクロウリーは、なんの悪びれもない。
あまりの少女漫画的展開に、思わずわたしは、笑ってしまった。気味の悪そうな反応をする彼のことを、今度はわたしが逆においていく番。だって、いくらなんでも、アラサーになってそんな夢を見るなんて。
ね、随分とわたしもかわいいんじゃなくて?まったく、男子高校生に混ざったところで、何かが起きるわけがない。それに、今更、恋だの?愛だの?面倒くさいことに巻き込まれたくもなかった。夢であっても、それは同じ。
「それで、少しは理解できました?」
「ええ、少しは。」
「よろしい。では、鏡の前へ。」
わたしが一歩踏み出せば、大きな鏡には緑色の炎と仮面が浮かび上がる。ヒールの音が無機質な床を鳴らしながら、その鏡の前へとたどり着いた。魔法がある、というのだから、あまり驚きもしないが、仮面はわたしに尋ねかける。
「汝の名を告げよ。」
「なまえ、です。」
わたしの回答に、仮面は少しだけ眉をひそめた。仮面でも表情がなんとなく分かるのか、という気持ちと、人の名前でそんな顔をするのは失礼ね、という気持ちが入り混じる。
「夢を見ているのか?」
そう仮面はわたしに問いかけた。これは、夢だもの。夢を見ていて、当然よ。イエスを答えるわたしに、炎がより燃え上がる。そして、鏡の中から、仮面も炎も消えた、と思えば、わたしの目の前が暗転した。
また、真っ暗闇だ。突然の暗闇は、足元すらぐらぐら揺らし、まともに自分が立っているかすら分からない。
ただただ闇しかない視界に、しばらくすると、また緑の炎がぽつりぽつりと宿っていく。そして、今度は鏡越しではなく、自分の目の前に、仮面だけが現れた。
「夢ではない。
汝の魂は、戻るべき場所へ戻ってきたのだ。」
その仮面の言葉の意味をすぐに理解できるほど、わたしの頭は賢いわけじゃあない。ただ、夢にしては、炎の熱さは酷くリアルで。気付けば、いつのまにか、自分の周りを炎が囲んでいた。
じわり、わたしに近づいてくるその炎は、これ以上来ないでほしいという願いとは裏腹に、ヒールの先を焦がし、わたしの足元に大きな炎を上げる。熱い、痛い。そう感じるのがやっとで、一気にわたしの体は炎に包まれた。
最後に記憶があるのは、笑みを浮かべる仮面だけ。
(魂は世界を巡るもの。そして、その形は、無限である。)
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