00-04.



目覚めたのは、もうとっくにお昼が回っていた時間だった。時間感覚がまったくないわたしには、いまが正しく何時なのかが分かるわけでもなかったけれど。もうすっかり日が昇りきっていることを考えると、正午は回っているに違いがない。
完全にクリアにならない頭で、もう一度、ベッドに仰向けに倒れこむ。


「随分遅い寝起きだな。」

突然、上から降ってきた声は、クロウリーとは違う。そこにいたのは、昨日のツートンカラーの、たしか、クルーウェル、だ。

「おはよう、ございます...?」
「もう仔犬のように、泣いてはいないのか。」

ふ、と笑ったように見える彼は、すぐにわたしの視界から姿を消した。昨日のことを言っているのかと、思わず恥ずかしくなって、両頬に自分の手を当てる。もう彼はこちらを見ていないとか、そんなことは関係ない。失礼しました、そう小さく口にすれば、いや。とだけ返事が返ってきた。
流石に人が来たのに、悠長に寝ているほど、心根は腐っていない。ゆっくり起き上がったところで、彼は、昼食をサイドテーブルにおいてくれる。威圧的な雰囲気はあるように感じるが、クロウリーに比べれば、随分、人としてまともな人だ。
お礼を述べたわたしに、今度は大きめの紙袋が手渡され、その中には、黒い布が入っていた。

「貴様の制服だ。」
「えっ、制服です...?」

いやだという顔でもしていたのだろうか。よく見てからその顔をするんだな?とクルーウェルは、鼻でわたしを笑う。
制服、と聞いたら、流石にアラサーは、まともな反応が出来ないと思う。ブレザーだろうがセーラーだろうが、もう着れないってば。そんなわたしの杞憂とは裏腹に、一番上にあったのは、今着ているものと類似したワンピースだった。だけど、今のはマーメイドで、彼に渡されたものは、Aラインのフレア。ウエストの上が絞られているので、綺麗な形をしている。

「これなら、着れますね。」
「この俺が選んだんだ、当然だろう。」

フン、と得意げな顔をする彼に、返す言葉もない。よく、わたしの好みがわかったな、と思った。これをもし、自分の恋人に送られたとしたら、かわいい、最高、120点。ってかんじ。まあ、そんな人いないから、くだらない例えなんだけど。
これが制服、ということは、これで学校に来い、ということだろうか。ワンピースの他には、運動用のツナギと、インナーが入れられていた。うわ、体育もあるの、流石についていける自信はないわね...。

「アー、ところで、えっと、クルーウェルさんは、衣装担当とかですか?」
「担任だ。」
「たん、にん。」
「なんだ。」
「いや、そんな響き、すごくひさしぶりで。」

そうか、わたしは、生徒なのか。
もう一度、学校生活をやり直すだなんて、思ってもいなかったから、その言葉を聞いて、しみじみ実感する。しかも、知らない世界で、その上、魔法士の養成のための学校だなんて。しいていうなら、テストなんてものがなければ最高だけど、そんなわけにはいかなさそうね。

「なまえ。貴様は、明日から俺のクラスの生徒だ。お行儀から教えてやろう。」

手元の指示棒をわたしへ指差しながらそう言い終わると、彼は保健室の扉から出ていった。最後に、学園長が来るまでは大人しくステイしておけよ、と付け加えて。




(泣くのも当然だ。可愛そうなあの仔犬は、この世界のことを何も知らない。)







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