00-07.



ざっくばらんに置かれたお菓子。それに合わせた一人一つのティーカップ。机の上に広がったそれらを囲めば、まるで学生時代に戻ったようだった。


「いや〜けーくんだったら、ムリ。」
「まって、わたしもムリ。」
「いや、なまえちゃんには起きてるからね?!」
「マジそれな〜?」

自分のコミュ力が高いとは思ってないけど(まあ、そう言うと周りから否定されるのよね、おかしいわ。)、恐らく、目の前にいる3人のコミュ力は異常に高い。右から、けーくん、カリムくん、リリアちゃん、そしてわたし、の順番にテーブルを囲ったお茶会は、驚くほど、話が弾んだ。この学校のはなしだったり、むしろ、この世界のはなしだったり。と思えば、わたしの世界のはなしもした。
まあ、魔法があるのだから、わたしの世界とはまったく違って当然なんだけど、思ったよりもこの世界は不思議で。歴史も違えば、常識もまったくちがう。今までの固定概念を捨てろと言われるようなことが、彼らの当たり前だった。夢だと言われる方が納得のいくはなしばかりで、おとぎ話のようだと思える。まるで、鏡の裏側の世界。

「じゃあ今度、魔法の絨毯に乗ってみないか?」
「え、なにそれ、乗りたい!」
「うわ、マジカメ映え間違いないやつじゃん〜、ラッキーだね、なまえちゃん!」

会話だけなら、おそらくこの場に馴染めている自信はあった、自分の環境適応能力をほめてあげたいくらい。和気あいあいと話は進んで、カリムくんとは次の約束まで取り付けてしまうんだから。これが出逢って数時間以内の話だとは、誰も思わないわね。ちなみに、魔法の絨毯というのは、彼のお家に代々伝わる家宝で、わたしが知る魔法の絨毯で認識が合っているなら、それはきっと空を飛ぶものなのだろう。
けーくんは、マジカメというSNSが熱いらしい。聞いていると、それはわたしの世界で言うインスタのような存在だった。なるほど、そういうのは変わんないのね。お茶会が始まってから、タグ付けしちゃお〜とみんなで自撮りを撮られたのに対して、盛れてるのにして!なんて思わず彼と同じテンションになるんだから、元の世界での立ち位置をかなり早めに悟られそうだ。
元の世界では、そこそこ普通の企業で、そこそこ普通に仕事をして。プライベートもそこそこ充実していた。こんなノリの友人も周りにはいたし、逆に20も30も上の友人もいたし、まあまあ、年齢制限なく生きていたせいもあって、案外、彼等と接することは普通だった。若い子に混ざれるか心配していたのが、くだらない杞憂に思えるくらい、まあまあ、普通で、逆に笑ってしまう。

「ーさて、そろそろか?」
「ん、何がだ?」

リリアちゃんがティーカップをソーサーに置いた、と共に、教室の扉が大きく開いた。なかなかな音量に驚いたのは、わたしだけじゃない。扉を背中にしていたので、何が起きたのかと思いっきり後ろを振り返り、息をのむ。そこにいたのは、昼間にわたしを置いて出て行ったクルーウェルだった。

「お利口にできなかったようだな?」
「え、なんで、」
「ふふっ、熱り立つでないぞ、クルーウェル?」

困惑するわたしと、にこにこするリリアちゃん。カリムくんは、先生もお茶するか、なんて平然としていて、けーくんは苦笑いをしながらも、スマホを手放さない。クルーウェルは、めちゃくちゃ厳しい顔をし、扉の前で仁王立ちをしていた。なによこの、地獄絵図。

「なんでリリアちゃんわかったの。」
「勘じゃな。」
「Shut up!」

助けを乞うように隣を見たけれど、クルーウェルに一蹴される。Shut upなんて強い言葉を教師が使っていいのだろうか、なんだか綺麗めな雰囲気がある分、英語であってもこんな言葉を使われるのには違和感を感じた。でも、そんな疑問は口に出来ることなく、頭の中に消えていく。
結局、ついてこい、との圧力に根負けして、彼の背中をついていくことになった。ごめんねに、またなと手を振ってくれるカリムくんの太陽のような笑顔が恋しい。なんなら、歩いて5歩で早々に恋しい。クルーウェル、アナタ、わたしに厳しいわね。

「俺は、ステイと命じたはずだが?」
「すみません。」

半分やけくそのすみませんだった。確かに、謝罪をしなければいけないのは分かっているし、謝罪をする気持ちもある。でも、ちょっとだけ不服なのもたしか。申し訳ないことに、それは態度に表れていたらしい。わたしの少し先を歩く彼は、ため息をついた。
クルーウェル曰く、学園長であるクローリーが、彼の担任している生徒の起こした不祥事のせいで、その尻拭いと退学の手続きに忙しくしているため、代わりにこの後の作業を彼が行うことになったらしい。それでピリピリしているのもあるのか、彼の機嫌は、まだ収まりそうになかった。とんだとばっちりだわ、わたしも。

「担任の先生も大変ですね・・・?」
「貴様のような躾のなっていない仔犬がいるからな。」
「しつけ・・・、」
「何か文句でも?」
「いやありますけど、ないです・・・。」

教師って、人生で一度もなりたいと思ったことがないけれど、こういう姿を見ると、やっぱり自分には向いていないって思うわね。




(自分の知らない世界を話す彼女が、オレには、少しだけうらやましくも感じた。)







back/top