あまり寝ていないにもかかわらず、普段よりも少し早めに目を覚ました。
二日酔いにはあまりならない体質なのか、それとも、そこまでの量を飲む前に体がダウンしているのか、幸運にも二日酔いに苛まれることはない。今日も今日とて、それは変わらずだ。
ただ、昨日はメイクを落とすのも忘れて、ソファで寝落ちており、朝から酷い顔をしている。丁寧にメイクを落とし、シャワーを浴びて、パックでなんとか状態を誤魔化すこと20分。ようやく出社出来る顔になった。

「あ、やば!」

普段家を出る時間をもう既に5分は過ぎている。ヒールだと走りにくいが仕方ない。少し駆け足で、バス停までの道のりを急いだ。

出勤ラッシュを抜けた時間でも、バスが来ていないとバス停は長蛇の列になる。アクセスのいい大きな通り沿いだ、それは当然でもあった。2回ほどバスを見送って、ようやく自分の目の前にきたバスに乗り込む。ピ、と電子音が鳴り、奥へ進もうとしたところで、同じフロアの人を見つけてしまった。
ぐったりしたようにバスの吊革に体重をかけて眠る男性は、ドラコニア管轄のシルバーさん。彼が頻繁に眠ってしまう奇病、というのは社内でも有名な話だ。大丈夫だろうか、このまま起きるのだろうか。
少し道路は混雑していたものの、降りるバス停はすぐにやってくる。ピンポーンという次の降車場所を知らせる音に気づくことも無く、彼はまだ夢の中。これはどのタイミングで起こせば?そう思いながら、バス停でバスが開くのをモヤモヤして見ていれば、別の人が彼の肩を叩く。

「シルバーさん。会社着きましたよ。」

そう伝えた男性は、バスを降りていった。男性の呼びかけに気付いたシルバーさんも、まだ眠気眼でバスを降りていく。うっかり降り遅れそうになったわたしも、同じくそのあとを追った。
なるほど。そういう仕組みなのね。同じ時間帯に乗ったのは初めてだから知らなかったけれど、みんな、シルバーさんのことを知っているから、バス停で起こしてあげてるのか。
ただ、もう会社の近くとはいえ、ふらつく彼をこのまま置いていくのは気が引ける。

「シルバーさん?」
「・・ん、ああ、君か。」
「おはようございます。」
「おはよう。」

隣に立って声をかけてみれば、更に彼が覚醒したように見えた。少し他愛のない会話をして、同じ歩調でビルまで歩く。歩いていて眠られてはどうしようもないが、なんとかエレベーター待ちの列までは眠らずに来られた。

「はよっす。」
「おはよ、ラギーくん。」
「シルバーくんも相変わらずッスねぇ。」

そう言う彼も、欠伸をひとつ。朝から元気な人の気がしれないのは分かるなあ、わたしも目覚めは良くない方だ。睡眠時間が確保できるなら10時間寝たい、って平気で言っちゃう。それ以下は睡眠不足だって言い張りたい。まあ、とはいえ、わたしとは違い、ラギーくんの場合は、純粋に働きすぎな可能性の方が高かった。
昨日も遅かったの?と尋ねれば、まあまあ。なんて返ってくる。ただの秘書業務だけならキングスカラーさんが定時で消えることを考えると、居残りなんてありえないけれど、彼の場合はそうじゃなかった。確かに、役員秘書の方々はそれぞれ抱えてる業務量が多いものの、彼はその中でも、トップ3位には入るに違いないだろう。
とはいえ、彼曰く、俺は社長の秘書の方がゴメンッスよ。らしい。それなりのポジションで、かつ、報酬が見合っているからこのままでいいというのは、彼を知っていれば、確かに納得する回答ではあった。

「んで、アンタは昨日、アーシェングロット管轄とおデートッスか〜?モテる女は大変そうッスね。」
「デートなわけないでしょ。」
「えー、つまんねぇの。」

意地悪な顔をしたラギーくんは、シシシと、そうやって、特徴的な笑い方をする。絶対に思ってないような言い方をわざわざするあたり、わたしのことをからかっているのが見て取れた。
まったく、アジームさんの時といい、フロイドさんの時といい、まあまあ目ざとい男である。何もない、というのに、外野は勝手な想像をするのがお好きよね。男女が集まれば、すぐそういう関係に結びつけるんだから。確かに、仕方ないけど。

「あーあ、モテてみたい。」
「ハイハイ。がんばれがんばれ。」
「ちょっと、棒読み。」

半分冗談で言ってみれば、適当にあしらわれる。自分からふっておいて、こっちが乗ってみてもこんな調子。まあ、それがラギーくんらしいのかもしれない。
わたしにはそんな態度をしつつも、ちょっと眠りそうなシルバーさんに肩を貸しているあたり、面倒見がいいのが見て取れる。これだからきっと、キングスカラーさんとのスムーズな仕事が出来るのだろうな、なんて。




Thursday morning







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