13:00きっかり。みんなバタバタと席を立っていく。エレベーターの渋滞に巻き込まれるのは、たしかにゴメンだ。わたしも急ぎならそうするわね。
今日は、特段用事がない日だった。社長管轄の女性陣は、出張や会議で出払っているし、わざわざ誰かに声をかける程でもない。コンビニ飯でも決め込もうと、エレベーター渋滞が終わる頃まで、デスクで仕事を片付けていた。
さて、行こうかな、というタイミングでデスクの後ろを通りがかった人が2人。ローズハート管轄のダイヤモンドさんと、クローバーさんだ。目が合った彼らに、思わずお疲れ様です、を告げると、同じ言葉が返ってくる。
少し重めの扉を開けてくれたクローバーさんが、どうぞ。と、まるでエスコートをしてくれるので、小さく会釈をして扉の外へ出た。そんなわたしに声をかけてきたのは、ダイヤモンドさんの方だ。

「なまえちゃん、今日はどっかいくの?」
「あ、コンビニに行こうかと思って。」
「あれ、今日は1人なキブン?」
「ってわけでもないんですが、今日はみなさん外してて。」
「じゃあさ、オレたちと外でランチでもする?」

会社の人にお誘いをされて、お断りが出来るわけもない。それに、つい先日、ローズハート管轄のお2人には、お世話になったばかりだ。特段、今日は一人がいい、という訳でもない。
お2人がよろしければ、と返したわたしに、2人は二つ返事だった。

「なまえちゃん、何が好きなんだっけ。」
「え、何でしょう。お肉、かな・・・。」
「ソレって、夜の女の子が答える時のやつじゃん。」
「んもう、違いますよ!」
「こら、ケイト。職業差別はするなよ。」
「んもー、ジョーダンジョーダン!じゃあさ、ステーキでも食べる?」
「あ!好きです!」
「あはは、なまえちゃんって、わかりやすいよね〜。」

真っ白なビルのエントランスを歩きながら、ダイヤモンドさんに笑われる。そんなに分かりやすかっただろうか、疑問に思えば、そうだな、と隣でクローバーさんもそれに同意した。そんなつもりはないんだけれど。

「その方が可愛いんじゃないか?」
「ウン、カワイイカワイイ。」
「待ってください、ダイヤモンドさんのめちゃくちゃ言い慣れた感!」
「えー、オレ?!トレイくんでしょ!」
「てか、カワイイが棒読みすぎません?」
「まさか!」

さっきのお返しとばかりに、ちょっとからかったことを言ってみれば、うまくクローバーさんに逸らされる。残念、と少しふくれたわたしに、ダイヤモンドさんは、なまえちゃんにいじめられた〜、だなんて目元に指先をやり、泣いたフリを返した。絶対に泣いていないことは誰が見ても明白なので、それも彼の冗談。
ローズハート管轄の彼には、入社当初からお世話になっている。こんなやり取りも、互いに慣れたものだった。ノリのいいダイヤモンドさんがいなかったら、この会社での初期は、やっていけなかったかもしれない。

会社の近くにあるステーキ専門店は、思ったよりも混雑していなかった。白で統一され、アクセントとして黒色が添えられている。
最初の頃、ローズハートさんに叱られていたわたしを、ダイヤモンドさんがランチに連れて出してくれたお店なので、とても印象深い。

「最近、どう?」
「相変わらず、元気ですよ?」
「あはは、そーだよねぇ。」

それぞれ300グラムのステーキランチをオーダーし、グラスに注がれたお水に口付けていれば、ダイヤモンドさんに突然、質問された。それにした回答は、彼からすると欲しいものじゃなかったのか、苦笑いを返される。
4人席のテーブルに、わたしがソファ側で、ダイヤモンドさんとクローバーさんが手前側に座った。クローバーさんはお手洗いでちょうど席を外しており、テーブルにはわたし達2人きり。

「でも、会社にはめちゃくちゃ慣れました!」
「だよねー?最初はどうなるかなーって思ってたんだけど。」
「ご心配をおかけいたしまして・・・。」
「まあ、オレが心配するほどでもないっていうか・・・。実際、なまえちゃんが残ってくれて、オレ達も大助かりだしね。」
「それは良かったです、でも、わたしダイヤモンドさんいなかったら辞めてたかも。」
「ウッソ!」
「ホントですよ、これは、マジ。」

思った以上にわたしの本音は信じて貰えないようで。ダイヤモンドさんは笑いながら、ありがとうと言ってくれたけれど、真意が伝わっているかは分からない。ダイヤモンドさんがいなかったら、あの変わった人達の中やってけたはずないんだけれど。自分も変わっているだろってツッコミはおいといても、やっぱり最初って大事じゃない?

「あれ、どうしたんだ、ケイト。」
「え〜、何も無いけど?」
「お前が照れるなんて、珍しいじゃないか。」
「いや、は?トレイくん、んなわけないじゃん?」
「ん、そうか?」

お手洗いから戻ってきたクローバーさんが、不思議そうな顔をしたのに、ダイヤモンドさんは少し怪訝な顔を返す。クローバーさんがいう、照れてる、っていう表情を彼がしていたのかどうかというのは、正直、分からない。いたって普通だったので、むしろわたしも、クローバーさんに疑問を返したいくらいだった。



Thursday lunch







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