本日の社長の午後の予定は、15:00からだった。まだ、社長の姿は見えていない。
14:00にランチを済ませて戻ってきたわたしを、同じ社長室の同僚がトイレで捕まえる。トイレの女子トークは、外に響かないように小さな声で行われるのが定常だった。
「どうだった?ラ・ン・チ。」
「いや、どうもこうも。」
「紙袋持って帰ってきたのに?」
「ちょ、目ざとくない?」
互いに鏡に向かって、軽くメイクを直す。パウダーを叩く傍ら、そんなことを言われるものだから、少し大きな声がでてしまった。
確かに、彼女の言う通り、デスクの下にしまってきた紙袋には、彼からの贈り物が入っている。付き合ってくれた御礼だと渡されたそれは、気軽に受け取っていいお値段でも無かったのだけれど。何を送られたか分からないように、紙袋が茶色のものと二重だったのは確実にバイパーさんのアイディアだろう。
「何だったの?」
「ブルガリのチョコ。」
「うっわあ、さすがアジームさん・・・。」
「1粒1000マドル以上するって流石に知ってるから、
貰いづらさが半端なかったわよ。」
「普通の感覚だと、引くわね。」
「純粋にくれるから、引くのすら躊躇うわ。」
いくら食べてしまえばなくなる、とはいえ。ちょっと、一般OLには信じられないお値段だとは、流石にわかる。じゃなきゃ、あの茶袋にわざわざ入れません。きっと、アジームさんのことだから、わたしがチョコを好きだと知ってのこれなんだけれど。
なまえの広いキャパでこれって。と苦い顔をした彼女には返す言葉もない。隣で、薄いベージュのリップを塗った彼女と対照的に、発色のいいルビーボルドーのリップを薄く唇に塗って、唇を重ね合わせる。
はー、早くなまえが誰かとお付き合いしたりしないかな。だなんて、軽口を叩く彼女が恨めしい。言ってるでしょう、会社の人なんて、何かあったら面倒事になるんだから。自分が社内恋愛をしている彼女にしてみれば、そんなことないらしいけれど。わたしはちょっと、その勇気が出そうにない。そもそも、別にアプローチはかけられてませんしね。
「んー?私は気付いてるわよ。」
「何が?」
「なまえ狙いの男達。」
「うそでしょ、だれそれ?!」
「ひみつ〜!」
期待をさせるようなことだけ告げた彼女は、トイレから颯爽と出ていった。もう、なによ。モヤモヤするじゃない、絶対有り得ないことばっかり言うんだから。
そう小さくため息をついて、わたし自身もデスクへ足を早める。あまり長い間、席を外すわけにはいかなかった。
Monday afternoon
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