流石に昨日の飲み会は酷かった。おかげで珍しく会社の到着がギリギリ。なんとか髪の毛を巻く時間はあったけれど、いつもよりもお寝坊さんだ。
わたしは1杯目のアルコール以外飲んでいないので体調は悪くないものの、流石に2時就寝は体にこたえる。
あのペースに合わせていたユウちゃんは、扉を開いた時の顔色がまだ通常とは言い難いように見えたし、フェルミエくんとジグボルトくんは、ユウちゃん以上に顔色が悪かった。フェルミエくん、あの顔でシェーンハイトさんに大目玉喰らわなきゃいいんだけど。
ケロッとしていたのは、ハウルくんくらいなもので、丁寧にわたしの席に挨拶にきた彼は、自席へと向かっていった。ちなみに、昨日置いて帰った2人の姿はまだない。やっぱり、置いて帰るべきじゃなかったかしら・・・。

「あーあ・・・。」

10:00きっかりの朝会に、2人は間に合わなかった。長い針が1つ目の数字に移動した頃、ようやくフロアの扉が開き、2人が駆け込んでくる。それから間もなくして、既にデスクで仕事を始めていたわたしにも分かる程、ローズハートさんの大きな声が響き渡った。

「エース!デュース!今日という今日は、お分かりだね?!!!!」

彼等に責任があるとはいえ、自分の監督不行届とも言える出来事に胸が痛い。社会人である以上、自分達で責任は取るものだとは思うが、自分がしっかり釘をさしておけばよかったのも事実だ。
それにしても、昨日わたしが懇切丁寧に、ローズハートさんの良さを説いたのはなんだったのか。こうして降り出しに戻るのね・・・。

「みょうじ、ローズハート管轄の朝会が終わったら、ローズハートさんにDMの件確認しておいてくれ。」
「えっ、このタイミングでですか?」
「急ぎでな。この後、俺も来客で手が離せないんだ。頼むよ。」
「分かりました・・。」

わたしに中々な案件を渡した室長は、急ぎ足で扉から会議室へと向かっていった。こんなにも、自分のポジションと、話しかけやすい席を恨みたいことは無い。
このタイミングのローズハートさんへの確認とは。誰がどう見てもタイミングが悪すぎる。しかも、内容のよくわからない案件の確認だなんて。違うことに論点が飛び火しかねない。
資料を印刷しながらため息をついていれば、後ろを通りがかったローズハート管轄のケイト・ダイヤモンドが、そんなわたしに、どーしたの。と、気さくに話しかけてくれた。ちょうど朝会の終わった所だった彼に対して、ローズハートさんの機嫌を聞いてしまうのは、このあと案件がある人間なら、誰でもすることだろう。

「あちゃー、このタイミングで確認か〜・・・。」
「やばいですよね。」
「うーん、まだエーデュースコンビは怒られてるしね。あの後すぐ、ってのは、けっこう現実的じゃないかも。」
「ですよね・・・。」
「なまえちゃんも慣れてると思うから、地雷は踏まないと思うんだけど。」
「それが、内容が室長の案件なので、むしろ案件地雷な説あるなって。」
「うわあ、それはあるね・・・。」

印刷し終わった資料をサラッと目に通し、これは地雷臭がするな、とさらに感じる。管理部門の鬼の異名を持つローズハートさんだ、こんな内容の資料持っていって、この件でご確認頂きたいことが、だなんてそれだけで紙をバラバラにされたって文句は言えない。もちろん、それはそれで困る。

「とりあえず、トレイくんに相談してみたら?」
「うっ、そうします・・・。」

気が重いわたしに、がんばってね、とダイヤモンドさんはヒラヒラ手を振って、去っていった。彼の言うとおり、ローズハートさんの秘書であるトレイ・クローバーに相談してみる他ないだろう。
いま、ローズハート管轄の席に行くのは躊躇われるくらい空気が重いものの、そうも言ってられない。仕事はタイミングを見計らうことも重要だが、むしろ8割タイミングな気もするが、今回はやむなしだ。
わたしだって、室長に頼まれなきゃ、こんな時にわざわざ、ローズハートさんのお席にはいかないわよ。なんなら、急ぎでも避けたい。承認が通らなかったり、確認がスムーズに行かないことの方が嫌だもの。
相変わらず2人がドカンされている中、クローバーさんのお席へと伺う。しゃがみこんで、こっそり話しかければ、優しげな笑顔が返ってきた。

「どうした、そんな縮こまって。」
「あの、ご相談がありまして、」
「分かった。だが、その体勢を女性にさせるには良くないな?ほら、こっちの椅子に座ってくれ。」

そうデスクの辺りにおいてあった丸椅子を差し出される。わたしは床に膝をつくのなんて気にしないけれど、優しくて紳士的なクローバーさんには、NGだったらしい。確かに、わたしも流石に自席でこれをされたら椅子を差し出してるか。
失礼しますと小さく声に出して、クローバーさんと膝がくっつきそうな距離で縮こまりながら、本題へと入る。このタイミングの来訪に、目の前の彼も、流石に苦笑気味だった。
ようやく、トラッポラくんとスペードくんが席にとぼとぼ戻っていくのを横目に、サッとクローバーさんが立ち上がる。ちょっと待っていてくれ、そんな一言をわたしに告げるのを忘れないスマートさは、社内の多くの女性が憧れていて当然だなと思わされた。

「ローズハートさん、お茶でもいかがです?」
「ああ、・・・頼むよ。」

そんなやり取りをして、給湯室に向かってしまったクローバーさんが恋しい。なるべく身を潜めて、ローズハートさんの視界に入らないよう努める。向こうから話しかけれることはないだろうが、いま、彼に見つかるのは得策でない。
10分も経っていないはずなのに、クローバーさんが戻ってくるのが1時間にも2時間にも感じた。



Wednesday morning







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