行ってらっしゃい!
朝から大きな声で此方の眠気すら吹き飛ばしてしまう夫を、欠伸を噛み殺しながら玄関でお見送りをするのが毎朝の日課だ
リーグの四天王に加え今年度からアカデミーの美術教師も引き受けたハッサクさんは忙しい筈なのに毎朝疲れを感じさせない顔で行ってきますと告げる。このひと本当は疲れているのに無理をしてるんじゃないのかな、と此方が心配になってしまうのも仕方がないほどに毎日仕事漬けだ
心配する、と言っても私に出来ることはせいぜい美味しい食事を作ってこのひとの帰る場所を護ることくらい。あとできることと言ったら……
『ハッサクさん、失礼しますね』
「ンっ!?なまえ!!?」
隙を見せない程に確り締められた真っ赤なネクタイを引き、無防備な唇に軽く口付けると耳元で大きな声が聞こえた
『私が貴方のお仕事に口出すのも烏滸がましいと思いますが……
あまり無理をせず、怪我なく帰ってきてくださいね。美味しい夕飯をつくってハッサクさんの帰りを待っていますから』
拠れてしまったネクタイを直し、ぴっと襟を正すと大きな手が頬に触れた
「こんなに出来た女性を嫁に貰って小生は幸せ者ですね……
今日は急いで帰ってきます。可愛いなまえに寂しい思いをさせてしまった駄目な夫を許してください」
行ってきます、と私に軽く口付けるとジャケットを翻してさっさと大股で出て言ってしまった
『……寂しいだなんて一言も言っていないのだけれど』
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