「おや、その痣はどうされたのですか」彼が目を丸くして捉えたのは、私の人差しに指輪のようにして囲む青藍色の鬱血。忘れたくなるようなことを思い出させた当の本人に、はなから言うつもりなど無かったが、私の今の惨状など知らないとでも言うような変わらぬ態度を見て、今すぐに真実をぶち撒けてやろうとほくそ笑んだ。可哀想な女のことを知ったら、彼はどう思うのだろうか。快楽に震える身体から力を逃すためにこの指を咥えて、それが、貴方の指のことを想って、頂点に達した時に力強く噛んだだなんて、彼が知ったら…。そう思ったところで、目の前の彼はただただ微笑むようにしか見えなかった私の顔にその笑顔を塗り替える。太陽みたい。綺麗だな。ねえ、知ってる。太陽の本当の色って無色の白色光なの。そんな唯一無二の貴方が好きで、大好きで、こんなに煮詰めたような心の蓋を開けて見せた。与えられたのは冷たい水だったけど、私はそれでも良かった。辛かったけど、好きから嫌いになったけど、それでも良かった。良かったのに…。「もう、私に話しかけないでください。話しかけたら、嫌いになります」そう言うと、顔から滑り落ちるようにして無くなるその表情。それでもその光は強く、消えない、私のことを照らし続ける。遠くの方で私と彼を呼ぶ声がして、その残影を最後に目を逸らした。「それでは、定例会議を始めます」幾重にも重なる長机の中、人を掻き分けて一番後ろの端っこに座る。暗闇にパッと映し出されたスクリーンが目の前に映る光景を淡い光として包み込む。当たり前のようにして、隣に座った彼の、ガサガサとした太い指が私の人差し指を撫でた。器用に右手で書類などを持って、利き手でそのアザを憐れむ。太陽が私のことを連れ戻そうとしている。そのプリズムを通して映し出されたのは、紛れもなく青から紫の可視光。その七色のうちのどれかに当てはめられたくも無い。そう思っていたのに。彼の嫌いなところは、それでも私を映し出す。彼は、私のことを逃してくれない! パッとまた明るくなった周囲に、吟味される報告の内容。彼は私のことを見もせずに、向こう側にいる人間に話しかけるだけだった。
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