ある一つのギリシャ神話。理想の女性を象った銅像との結婚を信じ続けることで、神様がその芸術家の夢を叶えて、その銅像を本物の人間にしてくれた話。「ハッサク先生」朝の木漏れ日が降り注ぐ美術室、その中で佇む彼の後ろ姿に声をかけた。期待に応えようとその固い筋肉に笑顔を貼り付ける。「おはようございますですよ、今日も頑張りましょうね」その言葉を受けて、まるで銅像のようにして動かない私の体は彼の言葉の通りに血が巡り、呼吸を取り入れ、その台座から一歩を踏み出す。「おや、今日は…」しかし、その願いは、自分を偽ることでしか成果を出せない。「目の下に隈がありますですよ」そう言って私の頬に手をかけて親指を沿わせた。彼の顔から笑顔が消えるとその場の空気が冷たく張り詰めて、この場所から逃げたくなって堪らなくなる。アンビバレントで危うい感情が頭の中を駆け巡る。先生、私、本当は家にも帰らないし、お酒を飲むし、夜は丑三つ時からでしか落ち着くことができないの。声なんてこんなに甘く響く物では無いし、呑気にくだらない事で笑ってる友達なんて大嫌いなの。それをひた隠して、貴方に近付いたことを許してほしい。それなのに、その期待を裏切ることで彼の愛でる一員には入れないことを思うと、今日も頑張って私は私を取り繕うことができる。「昨日、遅い時間まで読書に耽ってしまって…」そんな有り得ない嘘がスラスラと出てくる。「そうでしたか、ダメですよ。時間を見て行動しなければ」何故かホッとしたような表情をしてその教戒を述べる。「はい」笑って誤魔化す、その哀れで滑稽な銅像。先生の理想はこういったものでしょう。貴方の期待に応えるから、私をどうか側に置かせてくださいね。その私を覆い隠すほどの体躯が、私の痩せ細った不健康体に影を落とす。授業が始まる。今日も離れていく二つの体。ここからは、まだ何も変わらない。動き出さない。私が人間になるまで、どれくらいの期待に答えればいいのだろう。沢山ある人の中に埋れれば、もう二度と目が合わなくなるこの時間。嫌い、嫌い。
【ピグマリオン効果】ある一つの物語から成る心理現象の名前。教師からの期待に応えて成果を成す生徒の神話。
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