※夢主の嘔吐描写
「自分の気持ちに、気付いてますか」
ほんの数週間前のこと、彼女はアオキのその問いかけに答えることが出来なかった。その前までよく通っていた宝食堂のランチも、心地悪さを感じたのか、行っていない。今日も昼食は家から持参したサンドイッチだった。
しかし、その時間になる頃に、午前中に服用した薬の副作用で吐き気を催す事態となっていた。会社に早退を希望し、今は帰路についている。朝から生理が始まったことも含めて、ここ数週間の運勢は悪かったのではないかと、額に汗をかきながら思った。
「兎に角、気持ち悪い」
あまり目立たないように、道の端に寄ってしゃがんだつもりだった。家に辿り着く前に、この吐き気を解消しなければ、知らない通行人の目の前で無様な姿を曝け出してしまうことになる。余裕がないせいで、ここが今まで避けていた宝食堂の付近だということを忘れてしまっていたらしい。誰かが彼女の名前を呼んだ。
「…どうしましたか?」
背を向けた向こう側でアオキが彼女のことを見つけ、声をかけた。正直、今1番ここに居て欲しくない人だと、彼女は阿呆で愚図な自分を呪う。反応も出来ずにそうしていると、アオキは徐に横に入り、彼女と同じようにしゃがんだ。何をするのかと、青白い顔でその行動を注視していると、ふと、大きな手が背中を撫で始める。
「アオキさん、止めてください…」
「吐きたいのでしょう。そうした方が良さそうです」
そんなことは百も承知だ。早くどこかに消えて欲しいと願っていたが、目の前に広げられたエチケット袋を見て安心している自分がいる。しかし、吐く姿を見られるのだけはと、眉を顰めて嫌悪感を示す。
「吐きそうなんです…」
アオキの目を見て、そう何度も訴えかけたが、背中の動く手は止まらなければ、表情すらも変わらない。次第に体の底から、液体が迫り上がってくる感覚がした。アオキは、彼女のことを見るために、無言でそこに居るようだった。
「…っ! うぅ…」
「…」
液体が吐き出され、ガサと袋を鳴らす。気分は最悪だった。アオキの手はその音に反応したように、突然止まり、背中から離れる。
「大丈夫ですか」
ティッシュを差し出された。何か広告が入っている、ポケットティッシュだった。
「人の吐く姿を見るなんて、趣味が悪いです」
「自分から逃げるので」
そう言われて、彼女はこれ以上何も言い返せなかった。アオキは、狼狽える彼女の姿を見て、少し嬉しそうに微笑んだ。
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