ぶんぶん、Hello Twisted World! 世の中の負エネルギーを背負いし、拙者ぞ〜。久しぶりでござるな、りすなー紳士諸君。おっほ、コメ荒れるなあれるな。ステイステイ。こほん、さてさて、新コーナー『冥土の土産に質問コーナ』です。何気ない質問に答えていくぞい。えー、なになに「氏には最近妹さんができたとか? どんな子ですか?」ふむ。拙者レベルになれば、そのような噂も広がっても致しなし。冥王もびっくりするレベチな陰を纏いし拙者が、あどけない女の子と何度朝チュンしたと思う? …………ごめん、やめよっか、この話。

 イデアは脳内で開かれたチャンネルを静かに閉じる。
 エレと宇宙誕生さながら衝撃的な出会いを経て、ようやくお互い 環境にも慣れてきた。最初こそ、たどたどしい言葉遣いだったエレは、オルトの指導の甲斐あってか、年相応の言葉遣いで話すようになっていた。まあ、何歳かしらないけど、とイデアは人気の無くなった食堂でぽつりとこぼす。そこには、遅めの昼食をとる3人の姿があった。

「んー、これは、……う?? わからないわ……。オルトくん、何て読むの?」
「 "寮" だよ」
「りょう」
「そうそう。ぼくたちの イグニハイド寮帰る場所 もこの "寮" に含まれる。学校が学生のため、会社が社員のために設置する、共住型施設を指す。簡単に言うと、みんなで一つの大きな家に住んでるってことだ」
「ふむふむ、なるほど。わかったわ!」
「また後で、読み返そう。じゃあ次、これはわかるかな?」
「これは、タマシイって読む?」
「正解だ! すごいねエレちゃん!! ミドルスクール卒業レベルをいつのまに読めるように」
「えへへっ、オルトくんのおかげだよ」


 オルトに褒められてよころびが隠せないエレ。2人の周りはあたたかいブランケットのような安らぎでいつも包まれている。なにこの仲良しさんたち。浄化されてしまいますぅ〜、とイデアはきゅんとした。それに、今ではファンクラブもあるとか? 大出世ですな。このままアイドルにでもなって、いつか巣立っていくのかもしれない。拙者がプロデューサーでござったか。じーん、と感慨深さをイデアは感じた。
 あのアズールも、集客が見込めると真剣な顔で言い出して、一日寮長みたいなことをエレにさせた。…………本当にさァ、こいつ天才か? って拙者確信したよ。アズール氏ズッ友だかんね。




「さながら、マッチ売りの少女ですね。牡蠣殻かきがらにもさいだ。持ち物は、たかがテッィシュですが」
「え、何その例え。ってか、その "たかが" テッシュにどんだけ手間暇を詰め込んだのさ……」
「いやですねぇ、イデアさん。僕は "未来のお客さま" に投資したまで、ですよ」

 ここはモストロラウンジのバックヤード。一日寮長を成功させるために……、いや語弊があるか。アズール氏の企みを成功させるための準備真っ最中だ。
 アズールは鈍く光る眼鏡のブリッジをクイっとあげて、上品に口元を歪めている。そのフレームには、マドルが降っているのか、黄金の契約書が降っているのか。はたまたその両方か。イデアには、アズールのフレームに写るものが何か検討もつかないでいた。しかし、一つわかること。こうなったアズールは誰にも止められないということだけだった。こりゃ、まぁた学園長に目をつけられそうですな。

 そんな2人の前で、少女がくるりと右へ左へ、半回転している。エレは、オクタヴィネル寮の雰囲気にとけ出しそうな服装に身を包んでいた。この一日寮長のために、アズールから渡された特注の服。
 燕尾服風のジャケット。後ろをひらひらと2枚の布が泳ぎ、そのジャケットの下から、カマーバンドが覗いている。胸元には、蝶ネクタイの代わりに、大きなリボンが見た人の視界を華やがせるだろう。腕に通したバスケットの中には、モストロ・ラウンジという地獄への切符広告が差し込まれた、何の変哲も無いティッシュが入ってる。特筆するなら、寮カラーにちなんだ色と模様が刷られていること。意外と芸が細かい匠の技。

「イデアおにいちゃん、似合ってる、かな? どう、かな」
「う、うん、にあってるよ。大丈夫っ」
「そっかよかったぁ」

 アズールたちとお揃いのミニハットについた、貝殻がうれしそうに揺れる。2000%全力肯定していきたい。見てよ、うちの子かわいいでしょう? とアズールを見たが、目がマドルになっているアズールには届かなかった。

「さあさあ、イデアさん、エレさん。どうぞ僕のために、金の卵を産むアヒルになってくださいね?」
「いや、せめてオブラートに包んでクレメンス」
「はぁーい!」




 プロデューサーとしての特権をフル活用して、その後エレとチェキを撮ったりした。こうして数ヶ月と少し、エレと共に過ごしてわかった事がいくつかある。アーカイブ解放。うん、拙者、トロフィーはプラチナまで持っていきたい派にて候。

「きょ、今日はフレンチトースト、なんだね」
「うん! これがお気に入りなの」
「エレちゃん、フレンチトーストもいいけど、ちょっと前より体重の値gーーーー」
「わばばば!! 言わないでオルトくん!!!!」

 あの日みたいに目をきらきらと輝かせて、一人で丁寧にフレンチトーストを切り分けたエレ。他にもたくさんの料理を食べたはずなんだけどなあ。あいかわらずフレンチトーストがお気に入りなところ。変わらないね。

 しらない一面を見せてくれるようになったのは、爆誕一ヶ月記念頃からだ。お祝いとして、歳相応に、そして無難にぬいぐるみでも渡そうとイデアは算段していた。寝る時はどうしてもエレがイデアの隣に来たがるので、ぬいぐるみがあれば緩和されるかな、という思いもあった。『twigole』先生を使った、抜かりない調査結果を胸に、エレと共にサムさんがいる購買部へ行った。しかし、どのぬいぐるみさんもお気に召さなかったし、結果ぬいぐるみを連れ帰ることはなかった。エレはどちらかというと、駄菓子が気になって仕方ないようだった。さすが、せ、せっ、せっしゃのいも、いもう、と?? はゎゎっ、目の付け所がシャープッ!!!!
 そのあと、誕生会と称したささやかな菓子パーティーが、イグニハイド寮でひらかれた。寮の母屋もびっくりの騒ぎようだったし、イデアはがけものダンスを披露してみせた。


「もっ、もっ」
「そんないっぱいにして食べたら、喉に詰まっちゃうよ?」
「んぐっ!!」

 オルトの忠告通り、エレは喉にフレンチトーストがつっかえたようだ。それを見たオルトは、ほらね? とけらけら笑っている。2人とも楽しそうだ、とイデアも自然と笑みがこぼれる。苦しそうにしているエレにコップを渡し、口元をハンカチで拭ってやる。されるがままのエレのぷっくりとした頬は、羞恥が広がっていた。

「時間、はいっぱいありますすし? ゆっくり、たべよう」
「……はぁい」


 口を尖らせたエレ。いいところのお嬢さんって感じの雰囲気だけど、見た目に寄らず駆け回ったり、木に登ったりすることがすきだということ。ついこの間も。イデアが飛行術の授業を受けている隣で、オルトの背に乗せてもらって、2人はビュンビュンと空をかけていた。イデアはその光景があまりにも眩しくて、目が焼けただれるかと思った。尊さのあまり、天を仰いだ。今なら箒に乗って天に召されるのもやぶさかではない。ドローンいっぱい用意したし、ありとあらゆる角度で ●REC しますた。兄に抜かりはないのだ。


 ただ、君は一体? 誰なんだ。という疑惑と疑念がずっとイデアを幽霊のようにつきまとう。別人のようになる、というか、そう 見・え・る・ 時がある。たとえば、初めてリドル氏と会った時。

 リドルをじっと見つめるあの視線。「あの人、なんだかお人形さんみたいね」と言って目をそらさないでいた。いや、 "逸らせないで" いた。カチリと首が固定されたようにみえたから。その時の表情が、なんだか知らない子みたいだと、イデアは目をこすった記憶がある。年頃の女の子って、人形>>>>越えられない壁>ぬいぐるみ なのか? twigole先生は、教えてくれなかったよ。とイデアは 雷いかずち に打たれたような気分になった。ここは腐っても男子校。サムさんの店でも、人形は表棚に陳列されていなかったから、物珍しかったのかな。言えば置いてもらえるんだろうけどね。多様性大事。



「明日、本当に行っちゃうの?」
「…………」


 彼女は、エレは、寂しがりやだ。
 大食堂で席取っておいてって、座らせて待たせていたとき。いつも静かなひだまりみたいな君が、ただただ黙って涙を流していた。過呼吸になるんじゃないかと心配になるほど、肺を忙しく動かして……。そういう出来事がこれまでに何度か発生した。その度、オルトにバイタルチェックをしてもらうが、身体に異常は見当たらない。打つ手なしだと、調査を打ちきろうとイデアが思っていた矢先。か細い小さな声で 「おいて、いかないで」 と、イデアの服の裾を掴んだ。ああ、君は置いていかれたくないんだね。ひっくひっく、としゃくり声をあげながらエレは小さなわがままを言ったから。視線を合わせるために、しゃがみ。掴まれたその手を離して、ゆっくりと両手で包んだ。

「大丈夫、僕がついてるからね」

 イデアは不器用な笑顔で、そう答えた。しばらくエレからの反応がなくて、え。拙者キモかった? 滑った???? きもいならきもいって言葉にしてえええええええ!!!! と内心冷や汗だらだら、笑顔が崩れかけ始める。どすんと、小さな衝突。初めて会ったあの時みたいに、イデアは床に尻餅をついた。




 だけど、どうしても外せない用事が明日あるから、実家に帰らなければならない。三日滞在の予定を一日だけに縮めても、離れる事をエレは頑なに嫌がった。なだめて、なだめて、寝かしつけたその朝方。イデアは一人で、実家に帰った。幽体離脱さながら、魔力体の自分を置いて。あとをオルトに託して。




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 これだからアナログは面倒なんだよ。さっさとデジタル化してくれ。
 太陽が昇ってきてもなお、たちこめるような薄暗さで陽を遮断する故郷。本当に朝の9時、10時ですか、と初めて上陸した者なら時間感覚が狂ってしまうことだろう。帰ってくるたび懐かしさと、やべえなこの島。とイデアは再認識するのだった。


 イデアの用事とは、初めて刈り取ったあの日。対象となった家系の情報を集めるよう実家に依頼していた。情報が大方集まったから、こうして呼び出されたのだ。しかし、集まった情報媒体は紙。家の事情により、持ち出し厳禁。そんな理由で、イデアは実家に帰ってきたのだ。

「たすかるよ、ほんと」
「ふふ、かわいい息子の珍しいわがままですからね」

 ふふふ、張り切りましたのよ? おほほ、と女性は優雅に微笑んでいる。母さんのこういうところを自分はしっかりと受け継いだのだろうか。電子には疎いが、さすがシュラウド夫人。家を裏から支えるその支柱たるや。なんと頼もしいことか。要も済んだことだし、さっさと帰寮しようと簡単な別れを告げる。お待ちになってと、柔らかな言葉尻の中に、凛とした夫人がのぞくその声色。

「ずっと気になっていたのだけれどね。イデアさん、あなた、なにか憑いてるわ」
「ついてる?」
「憑き物よ。やたらと結びつきが、固いのね。悪さは別にしないようですけど、祓ってしまいましょうか?」
「え? 悪いもんじゃないなら別に不要ですぞ。それに、あの作業仰仰しくて、苦手ですし」

 憑かれていそうなのは、僕じゃなくて、むしろエレのほうだ。とイデアは、リドルを見つめるあの仄暗い、虚構のようになる瞳を思い出す。

「そう……? イデアさんが、いいならいいのですが。でも気になるから、軽くね?」

 こうなった母さんは、面倒だ。こういうところは似ていないといいのだが。しぶしぶさを前面に出せば、少女のように喜ぶ母。ちょっとは親孝行してやろう……。夫人は、短い言葉を唱えて、イデアに触れる。「それじゃあ、またね」と軽い挨拶を交わして、イデアは実家の鏡を抜けた。お土産とか買って帰ろうかな。




ビリビリリリ

 警報のように鳴り響くそれは、オルトからの、エマージェンシーコールだ。珍しいけど、なぜ? とイデアは胸騒ぎを覚えた。耳鳴りのように響くその警鐘を止めるために、端末を取り出す。

「どうし……」
「兄さんッ!! お願いいますぐ帰ってきて!!!! えっ、えれ、えれちゃんが……強い魔力値を記録して、」


黒い液体が溢れて、苦しそうなんだーーーー



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