◆きのこ生ならぬ、菌生をジェイド先輩にせつめいする
きのこたちがいじらく成長する姿をみるのがすきだというので、
きのこの一生について、ジェイド先輩に概要を説明する。
「キノコの一生ですか?」
「はい、文献や図鑑を読んで内容を大方把握しておりますが、やはりご本人から聞くのが一番てっとりば……いえ、新たな知見が得られるかと思いまして」
「いや、キノコの妖精なんで」
「よろしくお願いしますね」
先輩とキノコの愛の巣こと魔法薬学室の一画は、ジェイド先輩の手腕により、いじらしく成長するキノコたちが胞子をクラッカー代わりに飛ばして、こ こ ろ よ く 出迎えてくれる。味方はいない。
「対価に、とびきりおいしい紅茶をいれてあげましょう」
営業スマイルましましのジェイド先輩は、いそいそといつもの定位置席に、優雅に足を組んで座った。待て、つっこみたいことが有り余る。私妖精なんで、キノコ自体じゃないんで、とか。脚長すぎでは、とか。坐高ひっく、とか。責めるようにじと目で睨んでみるも、頑として営業スマイルを崩さないので、しぶしぶという色を全面に出して最後の抵抗をした。はあああぁぁ、よろしくお願いしますぅ。
嫌味ったらしくお辞儀しても、ジェイド先輩の鉄壁営業スマイルにダメージを与えることは叶わなかった。ただ、おりめ正しく軽いお辞儀をし合っただけに終わる。
私妖精でキノコ自身じゃないけど、自分に繋がること関連することに興味を持って、知ろうとしてくれるというのは、どうにも心の隅っこがくすっぐったい。仕方ない説明しますよ、私、うれしいので。と心うちでぽやいてみる。
こほん。小さく咳ばらいをして、まずは生物の定義について認識合わせ。
生物の定義は、おおざっぱに三種類「動物」「植物」「菌類」を前提とすること。マジカルペンを振って、3種を空中に浮かべた。菌類の文字にアンダーラインを引く。
菌類のわたしたちは生きていくための栄養を自分で生成できません。そういう意味では「動物」とおなじで、他のものから栄養を取らないとだめです。よく同種と勘違いされがちな「植物」とは大きく違う点です。また、菌類のなかには、キノコ以外にカビとか酵母も含まれますが、一緒にしないでくださいよね。大きさが違うだけ? は?
「めちゃくちゃざっくりですが、ここまでは認識あいますか?」
んふんふとジェイド先輩は楽しそうに耳をかたむけている。テーブルに頬杖ついいた状態のまま、目で続きを催促してきた。菌床にしてやろうか。
「では、キノコの一生をわかりやすさ重視で、成体スタートで説明しますね」
ちょうど近くにいた、むっちりと厚いカサをつけた食用キノコをそっと手に取り、ジェイド先輩の目の前に持っていく。おたくの子を借りて説明させてもらいますよっと。
成体キノコは時期を迎えたら「胞子」を飛ばします。ネクストジェネレーションの[[rb:素 > もと]]ですね〜。きらきらと胞子にみたてた魔法をキノコのカサから飛ばす。
胞子は、風だったり、動物だったり、昆虫などによって遠くへ運ばれて、成長するのによい条件の場所で「発芽」します。大半の胞子は成長条件にあわない場所に落ちたら、そのまま菌生終了です。
この運ゲーを乗り越えて、発芽した菌糸は栄養をもとめて伸びていきます。菌の侵略だ〜!! という掛け声と共にうにょうにょと小さなコロニーを空中に描いてみせる。
ちなみに、菌糸には一応性があります……。わかりますよ、めちゃおどろきですよね。種類によっては何種類もの「性」をもっているキノコもいるとか。
成長のために侵略しつつ、対となる菌糸と出会って「接合」します。植物でいう受粉かなあ。この接合した菌糸のあつまりを菌糸体と言い、キノコの「本体」となります。その後も栄養をもとめて、蓄えて、成長していきます。まだ菌糸だよ、キノコじゃないよ! 菌糸は目には見えないよ! とうにょうにょのコロニーを広げた。
えー、またも運ゲーですが、湿度や温度、そして日光量、降水量などなどの発生条件が整ったときに、はじめて、目に見える形の「キノコ」が作られていきます。これを、子実体っていうんですけど……。コロニーの上にささやかな幼菌の姿を付け加える。
子実体のイメージとしては、さきほど菌糸の接合を受粉に例えましたが、子実体は植物でいう花とか果実かなあ。
キノコは、胞子を飛ばす役割をもった姿で、胞子を飛ばす為の構造を身に宿してます。と、描いた幼菌キノコを早送りのように魔法で成長させていく。本体の菌糸から栄養をたくさんもらって、時期がきたら胞子を飛ばします。そして、また新たな菌生が始まるわけですね。役割を終えたキノコは、消えてなくなっちゃいます、という言葉とともに空中にきらきらとただよっていた魔法を消す。
「これがキノコの一生です。文献にあることと説明したことに差はないとおもいますが……」
「ご説明いただきありがとうございます。とても面白かったですよ」
すばらしい先生ですね、とぱちぱち手を叩きほめてくれたが、素直に受け取ってよいか逡巡している間に、ジェイド先輩は立ち上がり長い脚を使って距離を詰めてきた。いくつか質問があるのですが、と言い身長差のある先輩に目の前に立たれたことに気づいてびくっと身体が反応する。
「ところで、あなたも胞子が出せるんでしょうか?」
人体でいうとカサはここらへんでしょうかね、と探るように髪を手で梳かれる。
私は言葉を失って、とけた。
◆◇主
とびきり美味しい紅茶じゃないと許さない。
家族以外に物理的距離を詰められるのは苦手。耐性ないよ(きのこは動かないし、周りにいるのも家族だけじゃね?という妄想)
◇◆ジェイド
おやおや
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