春陽






彼が無口で無表情だからって、愛情にまで乏しいっていうのは単なる偏見でしかないよ。だって少なくとも、私の前ではそうじゃないんだから。


「……かわいい…」
「あ、ありがとう…?」
「照れてる………」


…綺羅くんはふとした瞬間、すぐにこうやって好意を伝えてくれる。なんでこれが人に伝わらないんだろうと思う反面、私だけの特別のような気がしたりして気分は悪くない。愛されてるなあって実感するのもこういう時で、好きだなあっていちいち再確認する。寡黙で、優しくて、紳士を絵に描いたようなひとで、それなのにちょっとだけ甘えたで、なんとなく、なんとなく庇護欲を掻き立てられる。かわいいひとだと思う。


「……ねえ、」
「ん?」
「手……繋ご。今、誰もいない…」


自分の職業も省みて、私のことも考えて、優しく、優しくすくい上げてくれる。そっと繋がれた手は大きくて、綺麗で、男の人の手で、指先さえきちんと意図して守られた、「頑張る手」だった。


「ふふ、幸せだね。」
「……うん、」


幸せ。手を繋いで歩くこの時間が、優しく見下ろすたんぽぽの瞳が、優しい声が、持てる全部で甘やかされて、出来る全てで甘やかすその関係が、全部が、しあわせだ。


アイドルである綺羅くんが、私の隣をただの「皇綺羅」として歩いてくれる。そういうふうに仕合せてくれた神様に、運命に、偶然に、必然に、全てに感謝する。それが私の幸せ。



どこからかたんぽぽの綿毛が舞う。春も終わりが近付いて、太陽がじりじりと肌を焦がす。ねえ神様、来年のこの春も、ふたりでいられますように。私と、綺羅くんの季節でありますように。



special thanks...m