同級生の強烈な勧誘に負け水泳部に入部したのは、つい先日のこと。といっても、彼の押しに完敗したのではなく、単純に僕も彼らのように泳いでみたいと思ったからだ。彼の押しは小さなきっかけに過ぎない。
今日は生憎の雨模様だ。とある先輩は、雨の中でも泳ぐと言い出したけれど、部活動は休みになった。水泳という競技に少し引け目を感じる僕は、図書室へ足を運んだ。
図書室で、一人の女の子に目が留まる。
外を眺め、ため息をついては本を見る、またため息。胸元のリボンから察するに同じ学年だろう。少し気になりながら僕は水泳に関する本を数冊と好きな本を手に取ると、なんとなく彼女と向かい合う席で読書を始めることにした。
僕が読書を始めてそう時間もたっていない頃、本越しに見える彼女の落ち着きがなくなり始めた。帰ろうかな、やっぱやめとこう、いやでもどうしよう。彼女の心の声が手に取るようにわかる行動と表情に、僕はとうとう笑いが堪えられなくなってしまった。
初めて会う人に突然笑うなんて、なんて失礼なことをと一言伝えると「同じ学年ですよね。竜ヶ崎怜です 。」と軽く自己紹介をする。彼女は本から少し顔を覗かせながら自己紹介をしてくれた。森ノ宮和花...森ノ宮さんは、なぜそんなにも恥ずかしがるのか。人見知りなのだろうか。そんな顔が真っ赤になった森ノ宮さんの手元にあったのは陸上競技の本で、少し嬉しくなった僕は、興味があるのか聞いてしまう。華奢な彼女は何の競技をするのだろう。ああ僕も陸上部を続けていたら不思議な森ノ宮さんと一緒に部活ができたのかもしれない。とはいえ、僕は水泳部だ。心を強くもって彼女の話を聞くと、陸上競技に興味があるだけでこれといって何も、と教えてくれた。棒高跳び綺麗ですよね、と本の写真を見ながら小さく呟いた彼女は、はっとしていそいそと帰り支度を整え、失礼しますと一礼すると真っ赤な顔で帰ってしまった。
残された僕は読書の気も削がれたので片付けを始める。そうだ外は雨だ、傘を忘れてはいけない。図書室の入り口にある傘立てに目を向ければ、森ノ宮さんの名前のある傘があった。もしかしたらまだ間に合うかもしれない。今ごろ彼女は、下駄箱の辺りで、傘の存在を思い出している頃だろう。傘を2本持って僕は速足で彼女を追いかけることにした。