日々の授業やレッスンに追われ、体力のない私はもうくたくた。ユニットのため私自身のため、そして憧れであり思いを寄せる彼と肩を並べるため。少しだけと背伸びをしてみたものの続ければこんなにも疲れるものなのか。なんと情けない。そして私は誰もいないから少しくらいはと机に突っ伏してみた。ひたっと冷えた天板の予想外の心地よさに動けなくなってしまった。済ませておきたい事はいくつか思いつくものの、急ぐものでもないし部活もユニットの練習もお休み。そんな日こそ早く帰ればいいのにと思いはしても、頬に当たるひんやりとした心地よさが変わらず私を放してはくれなかった。
なんて贅沢な無駄な時間の使い方。いつも忙しなく働くあの副会長には、こんな風にだらだらとするような時間はあるのだろうか、そんな姿を見せるときもあるのかどうか。全然想像つかないな、なんて考えているうちに気付けば私は眠りに落ちていた。
「おい。」
誰かの声がする。どれ程眠っていたのか。
それにしても「おい」だなんて口が悪いな。うちのユニットのメンバーには、そんな子はいたかな。新しく入った1年生はそういえば度々言っていたかな。まあいいやと思いながら「あと五分」とだけ伝えると私は再び意識を手放す。
「おい5分経ったぞ。聞いているのか。」
「戸塚」と何度か呼ばれた気がした。はいはい戸塚ですよ。起きねばと思っていても起き上がれない。そんな私に声をかけてくれる誰かには本当に感謝してる。声の主は大きなため息をついたあと、名字を呼んだり、フルネームで呼んだりしても一向に起きない私をどんな顔で見ているんだろう。聞こえていた声もしだいになくなり、代わりに帰路につく学生の声が外から微かに聞こえてくる。
すると、とても小さく「ともえ」と呼ばれたかと思うと突然冷たいものが額に触れた。その温度はあまり心地のよいものではなく、さすがの私も諦めて目を開ける
すると目の前には少し険しい顔でこちらをみる姿があった。今までの声の主と今現在の状態。そして目の前にいる彼のことを認識した私はあまりの衝撃的な出来事に、飛び上がるように起きると彼も少し驚いた声を出した。
「は、蓮巳」
「まったく、ようやく目が覚めたか」
度し難いとこぼすと「熱はないようだが、体調でも悪いのか」と私を気づかう彼の言葉が嬉しく自然と頬が緩んでしまう。
ん?でも待って?頭の中では「ともえ」という私の名前が彼の声で聞こえ、音が残り続けて気になって仕方がない。ドキドキと心臓が忙しくするのを誤魔化すように「少し休んでいただけだったから」と強気な言葉は出るし、彼の方を全く向けずお礼も言えずで可愛げのない自分自身に本当に嫌気がさす。
絞り出した声でようやく付け足すように「ありがとう」と言えたものの、彼からも「ああ」としか返ってこない。
「貴様も教室で寝るようなことがあるんだな」
ふっと笑って穏やかな顔と優しい声色で言われたのが、鼓動の早さに拍車をかけて「珍しいものをみた」と少し嬉しそうに言う彼の姿はトドメをさすのに充分すぎた。不覚をとった。隣に並べと、あなたに追い付こうと頑張っているのに。こんなだらしのない姿を見られてしまったのなら、ますます彼との距離は遠ざかってしまう。違うの、あなたに認めて貰いたくてちょっと頑張りすぎたから、だから….。と心は訴えるも優しい顔でこちらを見る彼へ告げるのは素直な音にはならず「別にいいじゃない。」と歪んだ言葉で声になった。うそつき。「ふん」と私の反応に少し不満げに反応するが、なぜか彼に帰る様子は全くない。あれ、もしかして待ってくれてるの?嘘でしょと落ち込んでいた心が晴れていく。失敗を取り戻さないと、もっと素直に。
「蓮巳。あの….あのね」
「どうした?」と優しく聞いてくれる彼の顔は見られない。少しだけ素直に勇気を出して気持ちを伝えてみよう。
「さっき、名前で呼んでくれたでしょ。あれ嫌じゃないから」
身体中が熱くなるのがわかった。今すぐ走って帰りたい。でも待っていてくれたからと、彼の方を目の端で見ると顔を真っ赤にして口元に手をやり考え込む姿があって、どうしたものか。
「そうか。まさか、聞こえていたとはな…」
寝ているとばかり思っていたんだがと独り言を言ってから、私の方を見ると教室の外へ向かって歩いていく。それをただただ見ていると扉の前で立ち止まって「どうした?」とこちらを振り返る。
ううんと首を横にふると「すっかり遅くなってしまったな。」と時計を見てから視線を私に移し満足げな表情を浮かべる。
「帰るぞ、巴。送ってやろう」
なんなら兄に連絡して車を と話しを続ける蓮巳は、全く乙女心がわかってないなと思いながら、彼のもとへ駆け寄る。そもそも、一緒に帰るってだけで私には厳しいのに。それでも今日はいつもよりも少し素直になれる気がして。それは先程出した勇気のお陰なのか。
「車なんていらないわ。途中まででいいから二人で帰りましょ」
たかが名前で呼ばれたからと我ながら大胆に出たのは感心する。目の前の蓮巳は驚いた顔をした後、顔を緩めて「わかった」と携帯を片付けた。こんな日が来るなんて。幸せすぎて明日からの毎日が怖い。それから「待ってくれてありがとう」と無事に言えた私は彼の話にも自分の話にも思うままに真っ直ぐ伝えることができる。心が軽い。素直なうちに、今のうちに沢山彼に話しておこう。明日にはまた曲がった私になってるかもしれないから。
なんて贅沢な無駄な時間の使い方。いつも忙しなく働くあの副会長には、こんな風にだらだらとするような時間はあるのだろうか、そんな姿を見せるときもあるのかどうか。全然想像つかないな、なんて考えているうちに気付けば私は眠りに落ちていた。
「おい。」
誰かの声がする。どれ程眠っていたのか。
それにしても「おい」だなんて口が悪いな。うちのユニットのメンバーには、そんな子はいたかな。新しく入った1年生はそういえば度々言っていたかな。まあいいやと思いながら「あと五分」とだけ伝えると私は再び意識を手放す。
「おい5分経ったぞ。聞いているのか。」
「戸塚」と何度か呼ばれた気がした。はいはい戸塚ですよ。起きねばと思っていても起き上がれない。そんな私に声をかけてくれる誰かには本当に感謝してる。声の主は大きなため息をついたあと、名字を呼んだり、フルネームで呼んだりしても一向に起きない私をどんな顔で見ているんだろう。聞こえていた声もしだいになくなり、代わりに帰路につく学生の声が外から微かに聞こえてくる。
すると、とても小さく「ともえ」と呼ばれたかと思うと突然冷たいものが額に触れた。その温度はあまり心地のよいものではなく、さすがの私も諦めて目を開ける
すると目の前には少し険しい顔でこちらをみる姿があった。今までの声の主と今現在の状態。そして目の前にいる彼のことを認識した私はあまりの衝撃的な出来事に、飛び上がるように起きると彼も少し驚いた声を出した。
「は、蓮巳」
「まったく、ようやく目が覚めたか」
度し難いとこぼすと「熱はないようだが、体調でも悪いのか」と私を気づかう彼の言葉が嬉しく自然と頬が緩んでしまう。
ん?でも待って?頭の中では「ともえ」という私の名前が彼の声で聞こえ、音が残り続けて気になって仕方がない。ドキドキと心臓が忙しくするのを誤魔化すように「少し休んでいただけだったから」と強気な言葉は出るし、彼の方を全く向けずお礼も言えずで可愛げのない自分自身に本当に嫌気がさす。
絞り出した声でようやく付け足すように「ありがとう」と言えたものの、彼からも「ああ」としか返ってこない。
「貴様も教室で寝るようなことがあるんだな」
ふっと笑って穏やかな顔と優しい声色で言われたのが、鼓動の早さに拍車をかけて「珍しいものをみた」と少し嬉しそうに言う彼の姿はトドメをさすのに充分すぎた。不覚をとった。隣に並べと、あなたに追い付こうと頑張っているのに。こんなだらしのない姿を見られてしまったのなら、ますます彼との距離は遠ざかってしまう。違うの、あなたに認めて貰いたくてちょっと頑張りすぎたから、だから….。と心は訴えるも優しい顔でこちらを見る彼へ告げるのは素直な音にはならず「別にいいじゃない。」と歪んだ言葉で声になった。うそつき。「ふん」と私の反応に少し不満げに反応するが、なぜか彼に帰る様子は全くない。あれ、もしかして待ってくれてるの?嘘でしょと落ち込んでいた心が晴れていく。失敗を取り戻さないと、もっと素直に。
「蓮巳。あの….あのね」
「どうした?」と優しく聞いてくれる彼の顔は見られない。少しだけ素直に勇気を出して気持ちを伝えてみよう。
「さっき、名前で呼んでくれたでしょ。あれ嫌じゃないから」
身体中が熱くなるのがわかった。今すぐ走って帰りたい。でも待っていてくれたからと、彼の方を目の端で見ると顔を真っ赤にして口元に手をやり考え込む姿があって、どうしたものか。
「そうか。まさか、聞こえていたとはな…」
寝ているとばかり思っていたんだがと独り言を言ってから、私の方を見ると教室の外へ向かって歩いていく。それをただただ見ていると扉の前で立ち止まって「どうした?」とこちらを振り返る。
ううんと首を横にふると「すっかり遅くなってしまったな。」と時計を見てから視線を私に移し満足げな表情を浮かべる。
「帰るぞ、巴。送ってやろう」
なんなら兄に連絡して車を と話しを続ける蓮巳は、全く乙女心がわかってないなと思いながら、彼のもとへ駆け寄る。そもそも、一緒に帰るってだけで私には厳しいのに。それでも今日はいつもよりも少し素直になれる気がして。それは先程出した勇気のお陰なのか。
「車なんていらないわ。途中まででいいから二人で帰りましょ」
たかが名前で呼ばれたからと我ながら大胆に出たのは感心する。目の前の蓮巳は驚いた顔をした後、顔を緩めて「わかった」と携帯を片付けた。こんな日が来るなんて。幸せすぎて明日からの毎日が怖い。それから「待ってくれてありがとう」と無事に言えた私は彼の話にも自分の話にも思うままに真っ直ぐ伝えることができる。心が軽い。素直なうちに、今のうちに沢山彼に話しておこう。明日にはまた曲がった私になってるかもしれないから。