▼【My hero】(ウォッチメン)
◇ロールシャッハ「私にはロールシャッハみたいな力も頭脳もないけれど、」
階段の途中で座った女が呟く。俺はそいつの名前を知らない。そいつも俺がロールシャッハであることしか知らないだろう。
何度かしか会ったことがないはずなのに、女は俺に向かって話しかけていた。
「私だってヒーローになれるのよ。
泣いている子の肩に上着をかけて、世界の終わりじゃないと励ますの」
女は薄手のワンピース1枚だけ着て、肩を震わせて泣いていた。
「それだけでいいの」
言葉は自分自身に言い聞かせるようで、変わらず寒そうに肩は震えていた。俺の口から唸り声に近い音と溜息が一緒に溢れる。
「…いつもコートを着てなきゃな」
「ふふ。貴方はいつでもヒーローね」
気丈に笑う女に呆れてしまう。自分が着ていたコートを脱いで女にかける俺自身にはもっと呆れた。