雨の日、コンビニ前にて君と
任務終わりの帰り道。ふいにぽつり、と水滴が肩に落ちて来たので空を見上げると、既に日が落ちた空がぼんやりと翳っていた。ああ、これは降られるな。急ぎ足で近くにあったコンビニに駆け込んだところで雨が地面を叩く音が強くなった。家まではそう遠くないが、どうしたものかと思考を巡らせる。たまたま本部で会った迅に「雨降るから早く帰ったほうがいいよ。と言っても、お前は守らないだろうからびしょ濡れで帰ることになる」とお得意のサイドエフェクトで告げられていたのに、守らなかった―いや、守れなかったのだ。広報の仕事やメンバーとの打ち合わせなど、朝から晩まで予定は詰まっていたのだから。
時間は二十二時を回っている。家族に連絡をして迎えに来てもらうのも憚られる時間だ。ましてや、一人で帰れないティーンでもない。
雑誌コーナーの前―ガラス越しに外を見る。通り雨だったらいいのだけれど、家まで近いのに傘を購入するべきだろうか。明日はボーダーの仕事がまる一日オフで、午前中は大学もないから少しくらい帰るのが遅れてもいいしな、と自分の意思を天秤にかけたところで、白いゆらめきが窓の外に流れていくのを見つける。
雑誌コーナーの上から覗き込むようにしてその流れの元を追うと、そこにはコンビニ据え置きの円柱型の灰皿と、その横に一人の女性がしゃがんでいるのが見えた。ゆらゆらと紫煙を吐き出しながら、雨に濡れそうな位置で外をぼーっと眺めているようだ。
ふ、と。しゃがんでいた女性が立ち上がり、ぐっと背伸びをした。そのまま振り返り、俺と目が合う。女性は驚いたようにぱちぱちと瞬きをすると、少し笑いながら手招きをした。俺、か?俺だよな?少し不安になりながらコンビニの外に出て、濡れないように灰皿脇まで移動すると、おもむろに煙草を差し出された。
「あ、いや、悪い。欲しかったわけじゃないんだ」
「あれ、違うの?」
「ああ、雨が降っているのに、なぜ店内に入らないのかって考えてて」
「なんだ。じっと見てくるから、一本欲しいのかと思った」
くすり、と笑った顔はまだ煙草を吸える年齢には見えなかった。不釣り合いな容姿から差し出された煙草を遠慮すると、彼女はそのまま咥えて火をつけた。ゆらゆらと、紫煙が溶けていく。
しゃがんでいた彼女の膝はコンクリートに打ち付けた雨が跳ね返り濡れていた。ジーンズの色が濃くなり、外にいては時期に体が冷えるだろう。とんとん、と灰皿に灰を落としてから、彼女は口を開いた。
「傘、無いしなあ。この雨の中帰って、びしょ濡れになって速攻お風呂コースなら、面倒くさいけどもう少しこうやってのんびりしてようかなぁ」
「傘があればいいのか?」
「傘…うん、そうだね。あれば帰れるけど。近いし」
すぐそこなんだ、と指差して笑う。帰る前に一服、と思ったら雨に振られちゃうなんてついてないよねえ。とぽつりと呟く。止むことのない雨がなおも勢いを失わずに地面に打ち付けるさまを見ながら、また灰を落とす。
ここに居ては体が冷えてしまうし、かと言って彼女は店内で雨宿りをしないのだろう。するなら既にしているはずだ。
「傘買ってくるよ。だから、家まで送らせてくれないか」
「…君、お人好しって言われるでしょ」
「何でもいいけど、俺の家の方向も同じなんだ」
あっち、と先程まで彼女が指差していた方角を示すと、煙草を咥えたままの彼女が、さも面白そうに笑った。
「いいよ、送られてあげる。でも、歩きタバコしたくないから、吸い終わるまで待ってね」
ふう、っと紫煙を吐き出す彼女を横目に、再びコンビニの中へ戻った。ビニール傘を手に取り、レジへ通す。ああ、迅の予知も外れるんだななんて思いながら。