似た者同士エンカウント

人より平均体温が高いことを利用し、保健室のベッドを借りてよくサボっていた。熱っぽいような気がして、と伝えると養護教諭は体温計を渡してきて、腋に挟めば37.4度と表示される。早退したくないので1時間休ませてくださいと言えば養護教諭は嫌な顔をしなかった。成績や素行に問題はないし、周りからは体調不良の多い生徒と思われていたけど、利用できるものは利用したほうがいいに決まっている。人生なんてきっとこんなもんだ。

私が授業をサボるのは数学嫌だなぁ、だとか、古典の授業で寝るくらいなら保健室で寝たほうがいい、とか、そんな簡単なことだった。今日は、外が寒いので体育したくないと思ったからだ。天気も悪いし、雨が降る夢を見たから尚更嫌になる。ベッドに横になりながらぼんやりと携帯を操作すると、すぐ眠れそうなくらい眠気が襲ってきた。うとうととまぶたが重くなる。養護教諭が用事があるからと保健室を出て行き、より静かになった保健室で私は意識を手放した。夢を見た。誰かが私に語りかけている。ああ、あれは、同じクラスの。

戸ががらりと開いて、足音が聞こえる。その音で意識を取り戻した私は、まだ覚醒しきっていない体を起こし、ベッドから降りた。薄いカーテンを開ける。パイプ椅子に座って保健室の名簿に名前を書いている後ろ姿を見て声をかけた。

「迅くん」
「名字さんじゃん、どうしたの?また体調不良?」
「ううん、眠くて」
「悪いやつだなあ」

もっと真面目なのかと思ったと言われ、それも確かになあと思う。上手くやっているつもりだから、同級生には本当にひ弱に思われていることだろう。
右手の中指を伸ばしたまま器用にボールペンを持つ迅くんをしげしげと見る。

「指、怪我したの?」
「そう。少し切っちゃっただけなんだけどさあ、嵐山が保健室に行けってうるさくて」
「代わりに書いてあげようか」
「いいよ、すぐ終わるから」

迅くんとは同じクラスだけどあまり話したことがなかった。迅くんはボーダーに所属していて高校にいないことも多いし、私もサボっていればなお接する機会はない。それでも話しやすいのは、きっと彼が柔らかい雰囲気を作ってくれているからだろう。
そういえば迅くんのうわさを聞いたことがあった。未来が見えるらしい。同級生がひそひそと話していたそんな馬鹿げたうわさを何故か思い出した。
迅くんの近くにあったパイプ椅子に腰掛け、救急箱から絆創膏を取り出した。貼りやすいように剥がして渡す。

「迅くんってさ、未来が見えるってほんと?」
「誰が言ってたのそんなこと」
「同級生がさ、うわさしてたよ」

中指に絆創膏を巻きながら迅くんは笑った。誰も信じないようなうわさだ。それでも陰口はいつも場を盛り上げ熱狂させる。

「どうだろうね。そんなやつ居たら大変だと思うけど」
「私もそう思う」
「でしょ」

簡単な否定の言葉だった。うまいな、と思う。確信に触れず質問を打ち消すさまは何度もこの質問に経験があるような、そんな気がした。

「でもね、俺は名字さんがここに居るって知ってたよ」
「それは未来が見えたから?」
「どうだと思う?」

ただの勘かもしれないよと迅くんは言った。それはそうだ、ただ勘がいいだけの人間に対して未来を見ることができるってうわさが派生していったのかもしれない。真実はわからない。それでも目の前にいる迅くんは確かに何かを知っているような、そんな顔をしている。

「私もね、迅くんがここに来ること知っていたよ」
「そうなんだ」
「私が予知夢を見るって言ったら、迅くんは驚く?」

驚かないけど、その話は詳しく聞きたいかな。そう言って爽やかな、少しだけ胡散臭そうな笑顔で私を見つめた。保健室から見えるグラウンドは、空が曇っているせいか薄暗い。同級生はまだ体育を続けている。夢の通り、やっぱり雨降っちゃうのかなぁ、そんなことを考えながら私も笑った。