愛されたがり
スマホに誰からも連絡が来ていないことを確認し、ベッドに寝転がった。嫌だなあ、もう。胸の奥につっかえた気持ちはため息をつくくらいでは消えてくれない。
男の子だから、誰かと頻繁に連絡を取るような子じゃないから。彼のことを思い出しながら、そう言い訳をする。誰に対しての言い訳なんだ。彼女を寂しくさせている彼は悪くない、とでも言いたいんだろうか。ベッドがぎしりと軋んで、静かな部屋なのにやけにうるさく感じた。
本当はくだらない連絡をもっとしたい。夜ご飯なんだとか、今からお風呂に入るとか、そういう話だ。でも、連絡不精の彼の迷惑になりたくないから、しない。
最後の連絡は昨日の昼間、「今からボーダー」という一文のみ。行ってらっしゃいと送った私に対しての返事はなく、それからもう次の日の夜だ。
「あいたい」
ぼろっと思わず本音が溢れた。夜ご飯をお酒で済ませたのは、酔いが回って眠くなれば、自分の気持ちに負けて彼に連絡をすることなく今日が終わると思ったからだ。飲めない酒をたくさんコンビニで買ってきて、適当にいくつも飲んだせいで、いい感じに頭はグラグラする。寂しさは募る一方だったけど。
「寝る、とかだけでいいのにさあ、馬鹿」
本音を伝えられないから、こうして一人のときに爆発してしまう。堂々巡りするだけの気持ちを捨てて、もう寝てしまおう。スマホの電源を落とせば連絡が来なくて寂しいと思わなくなるかな。枕の脇に置いたスマホを手に取り、電源ボタンを長押しする。小さな振動のあとに、画面は真っ暗になった。部屋の電気をリモコンで消して、毛布を深く被って目を瞑る。おやすみ、と誰にも届かない声は寝具に染み込んだ。
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「おい、開けろ!」
ガンガンッと何かがぶつかる音がして、音の衝撃で脳は即座に覚醒した。ピントの合わない目を玄関に向けると、我が家のドアが叩かれているようだった。いるようだじゃない、現在進行形で叩かれている。え、今何時?スマホをつけてみるも寝る前に電源を落としたので反応がない。しくった。
置き時計は夜中の2時を示している。誰だこんな時間に。死んだ空き缶が横たわるワンルームを突っ切って、おそるおそるドアスコープを覗く。見えた人物に私は驚いて、慌ててドアを開けた。
「雅人くん…」
「あ?生きてたか」
「寝てたよ…。え、てか、こんな時間にどうしたの」
雅人くんはさみぃから入れろ、とずかずか部屋に上がっていく。電気をつけると、部屋には私が寝る前に飲み散らかしたお酒が放置されたままだったので、雅人くんは顔をしかめた。
「誰か来てたか?」
「あ、違う。これは私が一人で飲んだだけ」
「ハァ?酒苦手って言ってただろーが」
そうなんだけど。いや、そうなんだけど、うん。たまには飲みたい日もあるんだよ、高校生の君にはまだわからないかもしれないけど。
空き缶を拾ってキッチンに捨て戻ってくると、雅人くんは一人がけ用のソファーに深く座っていた。
「もしかして夜遊びしてた?」
「バーカ」
「違うんだ」
じゃあなんでこんな時間に。温かい飲み物でも用意しようかと思案していると、雅人くんは不機嫌そうな顔で「寝るぞ」と言った。寝る、って何か用事があったんじゃないの。だから、わざわざこんな時間に。
会いたかった彼が部屋にいる実感がなく、あれこれ考えるも空振り。どうしてなんだろうと、とりあえずスマホの電源をつけると、雅人くんからの着信履歴があった。
もしかしてこれ。心配してくれたのかな、と雅人くんを見るといつもの鋭い眼差しが私を見据えていた。ああ、もう、格好良くて慣れないなぁ、本当。「連絡してえときに繋がるようスマホの充電くらいちゃんとしろ」なんて、悩んでいた私を見たら雅人くんは怒ってしまうかな。
雅人くんが私の家に置いていた部屋着に着替えて、二人でベッドに潜り込む。さっきまで横になっていた温もりは消えかけていた。
私は明日も仕事があるし、雅人くんだって学校かボーダーがある。それなのに平日の夜に、こうして二人で居るのが不思議な感じがして、夢の続きみたいだった。
「おやすみ」
「おう」
先程死んでしまった言葉は、今度は寝具に沈みこむことなく受け取ってもらえた。背中側に雅人くんの暖かさを感じて顔が綻ぶ。さっきまで自分の想いに殺されそうになっていたのに、単純な女だ。
おやすみなさい。明日は、おはようが言えるね。