その色は青だった

何故大好きなバンドは解散してしまうんだろう。胸のうちをかき鳴らすギターも、脳に響くようなベースも、心音より爆音のドラムも、私に色をくれるボーカルも、無くなったことにはならないけれど、無くなってしまう。
未来が無いのだ。もう二度と、あの音は聞けないし、いつまでも私と歩んでくれないことはどこかでわかっているけれど、理解したくなくて、塞いでしまう。

好きなバンドが解散することは、私にとって、大好きだった彼氏に振られるようなそんな気分にさせるのだ。好きだったのに、もうあなたといる事は許されないのね。呪いにも似た感情で、いつまでもあなたに縛られる。あなたはそんなことを知らずにどこかで生きていて、私はそれが悔しい。ずるいと思う。あの音が私を創ってくれたのに、中途半端に創られたまんまで生きていかなきゃいけないのかと、悲観するのだ。
暗い室内の中、ぱきりとプラカップが音を立てる。音のした方向を見ると、ドリンクを飲んでいる彼と目があった。彼―荒船とはライブハウス前の製番順に整列しているときにばったり遭遇した。そのとき少し会話をして、中で合流する約束をしたのだ。同じボーダー隊員で顔見知り程度の仲だったけど、そんなことは今この場では関係がないのだ。ライブとはそんなものだ。

「荒船がこのバンド好きって知らなかったよ」
「俺も、名字さんが始まる前から泣くくらい好きだなんて知らなかった」
「それは黙っててよ」

ライブハウスの中に解散ライブを見ようと集まった多くの客がぎゅうぎゅうに詰まっていて、空気が薄い。いつもよりも人が多いのは、最後だから見に来た人が多いからだろうなあと思う。この光景も最後だと思うと、もう涙が止まらなくて、私はライブが始まってもいないのに泣いてしまっていた。

「名字さんは一番好きな曲、なんですか?」
「一番かあ…」

野暮な質問だなあと茶化そうとしたけど、きっと荒船はわかっていて質問したんだと思う。好きな曲は当たり前にたくさんある。高校時代通学中に良く聞いたあの曲も、失恋したときに永遠にリピートしたあの曲も、三ヶ月前のCMタイアップ曲も。荒船にだってそんな曲はあるだろう。彼の質問は私がどんなにこのバンドが好きだったか再確認させるのに的確だった。

悩んで上手く返事を返せずにいたら、フロアの電気が落ち歓声が上がる。私も負けじと声を出した。最後なのだ。ここでしか、彼らに想いを伝えられない。荒船もボーカルの名前を叫んでいる。私も、喉が擦り切れて血が滲んでもいいから、ここに確かに彼らの音楽に救われた人間がいたことを、どうか覚えていてほしい。
人間はいつか死んでしまうんだから、音楽も死んでしまうのが当たり前だ。だからこそ、今だけは。

ドラムの掛け声で音が生まれた。フロアを照らすライトが乱反射していくつも色が湧き出す。ボーカルの熱量に呼応して、観客のボルテージも上がっていく。涙がせり上がって来て、全てがぼやけた。荒船が、そんな私に気付いて背中をぽん、と叩いてくれる。
ああ、私は、この綺麗で、情熱に溢れていて、青春を色付けてくれたこの光景を、一生忘れないんだなと思う。