フレアスカートじゃ闘えない

大学の講義室に入ると、同じ講義を取っている学生が巷で話題のスマホゲームのことで騒いでいた。俺ガチャ爆死した、だとかこの新キャラ可愛いだとか他愛のない話だ。そんな話を横目に、私は講義室の決まった定位置に腰をおろす。一番後ろの列の、端っこ。ノートと教科書とペンケースを準備するとブルートゥースのイヤホンをオンにしてからスマホのアプリを立ち上げる。大きなロゴが表示され音が流れると画面をタップしてログイン。さっき学生が騒いでいた巷で話題のスマホゲームだ。私はそのゲームが話題になる前からひっそりとプレイしており、レベルはカンストしてイベントでは常に上位を取り続けている。所謂トップランカーってやつだ。

講義が始まり、ゲーム画面をオート周回にしてノートを取ることに集中する。この講義の試験はノートと教科書持ち込みOKで、単位認定の評価の大半が出席点によるものだから授業内容を聞いていなくても大丈夫だ。
誰かが遅れて入室した音がする。音の方向を気にせずにノートを取り続けていると、途中入室の主がどうやら隣に座ったようだった。
腕をつんつんと突かれ、イヤホンを外しながら横を見ると小声で「まだ出席取ってないよね?」と聞かれる。「うん」と返すと、彼は「セーフ」と言って笑った。隣に座ったのは太刀川くんだった。私でも知ってるくらい学内では有名な人で、ボーダーに所属しているらしい。
イヤホンをつけ直し、教授が板書の手を止めたのに合わせてゲームをオート周回から手動に切り替える。やはりゲームは手動が楽しい。たまに板書をしつつゲームに勤しむと、講義はあっという間に終わった。一度アプリを落とし、イヤホンの電源を切ると、太刀川くんに声をかけられる。

「それあれでしょ、最近人気のやつ」
「うん」
「真面目そうなのにゲームやるんだ」
「ゲームくらい誰でもするでしょ」
「講義中まで熱心にやるやつはなかなか居ないって」

好きなんだねゲーム。女の子でゲーム好きなのはうちの隊のクニチカくらいだと思ってた。と太刀川くんが続ける。太刀川くんにも誰かわからないクニチカさんにも興味がなかったけど、その後に続く言葉は私を揺さぶるには的確だった。

「国近もこのゲームやってるんだけど、こないだのイベント僅差でトップ取れなくて悔しがってたなぁ」
「こないだのイベントってことは、バレンタインイベ?」
「そうそう、多分そんな感じのやつ」

クニチカさんはバレンタインイベで2位だったらしい。2位って凄いな。とは私は思わなかった。なぜならそのイベント、私がトップだったからだ。
開始直後スタートダッシュし2位以下と大きく差をつけたのに、負けずと食らいついてくるプレイヤーがいた。レベルカンストしているわけでもなく、比較的最近始めたばかりのプレイヤーだ。とんでもない新人が現れたと恐ろしくなりつつ、稼働当初からプレイしている手前負けられなかった。

「そのプレイヤー名って、YUって名前?」
「そう!詳しいな〜熱心にやってるだけあるね」
「その子、太刀川くんの知り合いなんだ」
「俺の隊のオペレーター」
「じゃあ伝えておいて、ホワイトデーイベントも負けないからって」
「え?」
「私は"名前"だよ」

さっと身支度を整えると、太刀川くんに手を振ってから講義室をあとにする。次の講義室でもゲームが見つかりにくい席を取らなければいけないからすばやく移動をする。ゲーマーは忙しいのだ。

その数日後、「あの、名前さんですよね」と太刀川くんが連れていた可愛らしい女の子に声をかけられ、それがクニチカさんであると判明し大学近くのカフェで3人でお茶をすることになったのは、また後日語ることにする。