3日目の朝の長距離走を終えると、諏訪と堤と日佐人は朝食を取らずに帰っていった。夜に諏訪隊で任務があるんだと。それよりも朝食食べていかないの?って聞いたら帰りがけに適当に食っていくとのこと。ず、ず、ずるくない〜!?まぜろよ!
今日まで合宿に参加していた隊員は昼頃に本部から大型バスが到着し、新しく合宿に参加する隊員と入れ替わりになる。
1クール目、終了も近い。私はぐっと背伸びをしてから朝食を取っている隊員たちに荷物をまとめておくように声をかけた。
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「名前さん」
「ユズルじゃん、お疲れ様」
「今から訓練見てほしいんだけど」
「今から?もう帰りのバス来るのに」
「いいから」
時間がないというようにユズルは早足で訓練室へ向かう。振り返らず歩き出すのは私がついてくるとわかっているからだろうか。慌てて小さくなる背中を追いかけた。
訓練室に入ると、やはり隊員は少なかった。あと1時間足らずでバスが到着する予定で、皆荷物をまとめたりラウンジでのんびりしているからだ。ユズルはまばらに埋まっているブースの一番端に決めたようで、私のことをちらりと見る。見てろってか、わかったよ。
ユズルはトリガーを起動しブースに入るとイーグレットを構える。的に向かって弾を打ち込む姿を私はただ眺めていた。それもそう、私は戦闘訓練に関して何も口出しできない。出来るほど、強くはない。
的を狙撃しているユズルを斜め後ろから見ながら、大きくなったなぁなんて考えた。親か。せめて姉くらいの立ち位置でいさせてくれ。
私がユズルと話すようになったきっかけは、ユズルが中学生で狙撃手のセンスがある、所謂天才が入隊したと少し話題になったからだった。私はユズルがB級にあがってすぐにブースの前を待ち伏せして話しかけた。当時の私は努力をしているのに成長が見られない焦りからか、「どうやってすぐB級にあがったの」だとか「撃つときどんなことを考えているの」とか、自分より何歳も年上の女に急に聞かれても困るであろうことを投げかけたのを覚えている。ドン引きされていたかもしれないけど、それから少し話すようになって、ご飯も一緒に食べるようになって。ランク戦ではよく撃ち抜かれて負けていたけど、色んなことを話す仲になっていた。
だから、当然あの話も知っている。
「ユズルもさ、変わんないね。まだ探してるんだ」
誰もが腫れ物に触るようで避けている言葉を私は何の気なしに投げかける。傷つけたいわけじゃない。私からそう言われてもユズルは傷つかないってわかっているからだ。そういう信頼関係が私とユズルにはある。ユズルは振り向かないし、返事もしない。ただ淡々と、的に弾を打ち込んでいく。ユズルが訓練を見てほしいなんて言うわけがなかったんだ。少し私と話がしたいんだな、そう思った。
聞いていなくても、返事をしなくても構わない。誰かが引き金を引けば音がなる空間では、絶えず音が鳴っている。
「皆、私がいなくてもちゃんと生きててさ。いや当たり前の話なんだけど、変わっていく輪のなかに入れないでいる自分がさ、情けなくなっちゃうね」
ぽつりとそんなことを漏らせば、ユズルが視線だけをこちらに向けた。それも一瞬で、また静かな目は的を見据える。
訓練室内にアラームが鳴り響く。施設内全域に響くその音は、別にネイバー出現のお知らせなんてものじゃない。先程私が設定した、集合時間を知らせるものだ。
ユズルはトリガーをオフし、荷物を背負う。私は他の隊員に声を掛けながら、ユズルと訓練室をあとにした。やや早足でラウンジまで向かいながら、ユズルと会わなかったこの3年間はあっという間だったなあと思った。
隣に並ぶユズルがゆっくりと口を開く。
「名前さんは変わってないよ」
「私もそう思う。ユズルも変わらないね」
「…俺が変わったら、師匠が帰ってきたとき居場所が無くなってしまうから」
そうだね。そのほうがいい。きっと彼女にとっても、ユズルにとっても、過去に縋って馬鹿みたいに踏み出せないでいる人間がいることで救われることもあるんだ。別れ際、ユズルが「人のことを変わったって思うときは、本当は自分が変わってしまったときなんだって師匠が言ってた」って教えてくれた。そんなもんなのかなあ。私にはわからない。