買い出しを終えて合宿所に戻りバーベキューの用意をしていると、出水と佐鳥が喧嘩をしていると古寺が呼びに来た。慌てて現場に向かって仲裁に入り話を聞くと、模擬戦をしようとしてオペレーターの人数が足りず、佐鳥にオペレーターを任せたら役に立たなかった、ということらしい。お、お前らそれで喧嘩してんの!?アホなの!?

「マップくらい渡してくれ本当に。一瞬で菊地原にヤラれて終わったわ」
「だってぇ!どこ押せばいいのかわかんないんですもん!」
「じゃあ私がオペレーターやるよ、もう一回模擬戦やりな」
「名前さんオペレーターできるんですか?」
「こっちに来たとき、暇すぎて覚えた。模擬戦のオペレーター自体は初だけど佐鳥よりはできると思うよ」

ほら、散れ。と言うように手で追い払うと、出水たちは意気揚々とブースに駆け込んでいった。もう一人のオペレーターは、入りたての新人ちゃんだった。あいつら新人をよく捕まえたなと思って声をかけると、ジュース3本で買収されたらしい。新人ちゃんはまさかA級隊員の模擬戦のオペレーターをすると思っていなかったようで、顔が真っ青になっていた。同じ立場だったら私も顔面蒼白になるわ。気負いせずに、失敗しても怒らないから大丈夫。私もオペレーターはほとんど経験したことないしお手柔らかにね、と少しだけ言葉を交わし、ブースに入る。

出水・緑川・古寺のチームと当真・米屋・菊地原のチームに別れての模擬戦だ。佐鳥はオペレーター要員として呼ばれたため参加せずらしい。踏んだり蹴ったりな佐鳥。
ブース内、モニターの前に腰を落ち着けると、一つ深呼吸。私は出水のチームを担当する。なるようになれ。





「今から皆さんお楽しみのバーベキューを始めまーす。未成年は飲酒不可です。見つけた場合は本部に連絡次第、解雇後の私の人生がどうなるかを枕元でずっと語るのでお気をつけて」
「怖っ」

ヤジが飛んできた方向を睨むと、私の挨拶もそこそこに、バーベキューが始まった。各隊員が網に肉や野菜を思い思いに乗せていく。ジュージューといい音と匂いが広がり、それにあわせて笑い声も増えていった。
名前の知らないB級隊員に肉をよそってもらい、少し離れた場所に腰をおろす。冷蔵庫から持ってきたビールを開けるとぷしゅ、と気持ちいい音が鳴って一口飲んでからタバコに火をつけた。ぼーっと盛り上がる隊員たちを見ながらややふかし気味にタバコを咥えていると、おい、と声をかけられる。諏訪だ。

「お前あっちで食わねえの?」
「馬鹿だね諏訪、これが大人のバーベキューの楽しみ方ってもんでしょうよ」
「馬鹿騒ぎするの好きな癖によ」
「ほっとけ〜」

紙皿に肉をごっそり持ってきた諏訪が隣に腰をおろす。手を差し出されて、しぶしぶビールの缶を手渡した。諏訪の缶もぷしっといい音を立てて開き、私たちは乾杯をする。隣でぐびっと缶を煽る諏訪を見ながら、口を開いた。

「諏訪さぁ、なんで禁煙してんの」
「あー?…別に何でもいいだろ」
「前に、女がタバコを吸い始めるのは男の影響って言ってたじゃん。男がタバコをやめるのはどんな理由なの」

ただ知りたいだけ。私はまだ暫くはタバコをやめられないし、やめる気もない。私よりもヘビースモーカーな諏訪は、どんな気持ちで禁煙をしているんだろう。

「…まあ、変わらなきゃなって思ってな」
「ふぅん」
「興味ないだろお前」

遠くでみんなの盛り上がる声が聞こえる。私たち二人は取り残されてしまったかのように、静かだった。間を繋ぐのは揺らめいている紫煙だけ。それもすぐに消えてしまう。
会えば言いたいことが出てくると思っていた。2年前、逃げるように諏訪隊を辞め、四塚に来た私のことをどう思っているだとか。抜けたあとの隊はどうだとか。でも全部が喉の奥に隠れてしまって上手に言葉が出てこなかった。

「お〜いお前ら、しけてんな」
「冬島さんじゃん、体調戻りました?」
「戻ってないけど飯食って本部戻るわ」
「本当何しに来たんだよおっさん」

間を取り持つように冬島さんが現れた。少しホッとした。諏訪の纏う雰囲気に責められてるような気がしていたからだ。

「ライターの火つかなくなっちまってよ。名前、火ちょうだい」
「いいですよ。待ってくださいね、ライター出します」
「ん、いやこっち」

そういうと冬島さんは私の目の前にしゃがんでとんとんと自身の口元を叩いた。ああ、シガキスね。応えるように顔を近づけて火をわける。ジジッとタバコに火がうつり、冬島さんが煙を吐き出した。

「…諏訪ァ、そんな怖い顔すんなって」
「うるせー」
「何、諏訪も吸いたくなっちゃった?」
「バーカ」

うるせーにしろバーカにしろ子供みたい文句の付け方だな、諏訪。文句なのか?文句か、禁煙してるのに目の前で大好きなタバコ吸われてるんだもんな。

「知らねぇのか?禁煙ってうまいタバコを吸うためにやるんだぞ。うまいぞ禁煙後のタバコは〜」
「そーだそーだ。吸えよー」
「こんのヤニカス共が」
「私の1ミリだから吸えば?一本でやめとけば大丈夫でしょ」

ほら、と差し出すと諏訪は観念したかのようにタバコを受け取った。口に咥えてから甘え、と言い嫌そうな顔をした。グレープフレーバーのメンソール。諏訪が絶対買わないタバコでしょ。ちなみにパッケージが可愛くて買ったら美味しくてリピートしてしまったのだ。

「ほい、ライター」
「お前、おっさんにシガキスしといて俺にはしねーのかよ」
「え?」
「いいから俺もこっち」

ぐいっと後頭部を引き寄せられ、私と諏訪はシガキスをする。短くなった私のタバコのせいで目の前に諏訪の顔があって、諏訪は目を閉じているし、もう、これ本当にキスしてるみたいだ。

「甘ったるいし、くせー。んだこれ、メンソか」
「う、うん。そう」

顔が離れて、ぶは、と諏訪が煙を吐き出す。それを見て冬島さんがゲラゲラ笑っていた。私は熱が集まった顔を隠すようにそっぽを向いてビールを飲む。短くなったタバコを揉み消して、続けて2本目に火をつけたのは、強めのメンソールが顔の熱をどこかにやってくれないかな、なんて思ったからだ。
3人分の紫煙が空に溶けて、夜は進む。