朝の走り込みが終わり、朝食を食べたらあとは各自好きに訓練をするよう声をかけた。忍田さんから渡されていたメニューの殆どが生身を鍛えるもので、それも朝の走り込み以外は強制ではなくあくまでも「体を鍛えるならこの程度やる」という指標のようなものだった。なので隊員は訓練室でトリガーの練習をするも良し、筋トレをするも良し、模擬戦の記録を見るも良し。

私は本部に送るレポートのことを考えながら花火を片付けている隊員たちを見守る。軍手とトングとゴミ袋の装備で大爆発の後片付けをしている子達は私が四塚に来てから入隊した子だろうか、知らない子達だった。ごめんね、馬鹿な先輩たちがはしゃいだせいで君たちが片付けをすることになるなんて。君たちはいつかできる後輩に優しくするんだよ。

おおよそ終わった頃、ひとりの隊員に声をかけられた。「あの、これ」と差し出されたのは、生き残りと思われる線香花火だ。爆発に巻き込まれず奇跡的に生還したのか。ありがとうと伝え、線香花火を受け取った。





筋トレをする隊員たちを横目に本部に送るレポートを作成し終え、メールにて添付。送信完了の文字を見てノートパソコンを閉じた。
さて一服。
喫煙所にてのんびりタバコを吸いながら、筋トレと訓練室どちらに向かおうか考える。結論は出ず、とりあえず施設内の見回りに向かおうと思う。灰ごとタバコを水を張った灰皿に落とした。

「名字さん」

喫煙所を出てすぐに声をかけてきたのはB級の隊服を来た男の子だ。朝ごみ拾いをしてくれていた子。一礼する彼に会釈を返しつつどうしたの?と返事をする。

「今、お時間ありますか?」
「うん、あるよ」
「模擬戦やりたいんですけど、人数足りなくって」
「お、いいね。手伝ってあげる」

ブースの前に向かうと同じく名前の知らない隊員たちが集まっていた。チーム分けを裏表で決めるらしい。暖かく見守っていると、皆が不思議そうな顔で私を見ていた。ん?どした?

「柳羅さんも裏表しましょ」
「え、私オペレーターじゃないの?」
「いや、戦闘員が足りなくて」
「そうだったのね…」

昨日佐鳥の代わりをしたこともあって、すっかり私がオペレーターやるもんだと勘違いしていたわ。
何を隠そう私は四塚に来てから対人訓練をしていないし、そもそも諏訪隊にいた頃からB級ランク戦以外の模擬戦をあまり経験してこなかったし、正直苦手だ。でも私を含めると人数が揃っていて、一度返事をした手前断るのも忍びないし、不安そうな顔をしている隊員たちを見たら尚更断れなかった。

「1回だけだからね」

全員が安心した表情を浮かべた。私も輪に加わり表裏をする。手を出すと、チーム分けは表。同じチームの子は攻撃手と狙撃手。オペレーターの子にも挨拶してブースに入りトリガーを起動した。
心臓がどくりと音を立てた気がして、頭が痛くなった。





「ギリギリだったけど勝てたね」
「ありがとうございました!」
「いや私何もしてないし」

ブースから出て対戦したメンバーで反省会をする。久しぶりの対人戦。私は中盤敵の攻撃手に腕を落とされ、間もなくトリオン切れベイルアウトという所でにチームメイトの狙撃手が試合を決めてくれた。
私は全員に缶ジュースをご馳走し、ブース前のソファーに座りながら試合内容の振り返りをする隊員たちを微笑ましい視線で見ていた。私にもこんな頃あったなぁ。
隊員たちはまだ話に花を咲かせていたが、タバコを吸いたいのでまたねと断りを入れてその場を後にする。少し歩いて、喫煙所の前で背後から声をかけられた。

「名前さん!」
「わっ日佐人どうしたの」
「すいません急に。模擬戦、やってたんですね」

追いかけてきたのか、少し息を切らして日佐人がそう言う。あー人足りないって言うから、仕方なくね。でも疲れたからもう無理だ。模擬戦は頭を使うから苦手。
日佐人の後ろには三バカや犬飼、諏訪や堤もいる。皆少し遅れて日佐人の後をついてきたようだ。

「え、なにしてんの皆。訓練は?」
「名前さんが模擬戦やってるの見てたよ〜」
「見ないでよ」
「俺達ともやりましょ!」
「嫌だよ。A級隊員とは力の差歴然だからやりたくない」
「そんなこと言わずに」

グイグイくるな米屋〜。緑川と犬飼は私の背中を押して来た道を戻ろうとするし、日佐人には腕を取られている。待って!タバコ吸いに来たの!離して!
引き下がらない日佐人に「久しぶりに名前さんと模擬戦したいんです」と言われると、私はもう弱かった。日佐人は私のことを本当に信じて頼ってくれる後輩だった。折れた。

「…1回だけね。あとメンバー選ばせて。出水米屋緑川私」
「ウッワ名前さん手抜くつもりじゃん」
「俺名前さんと戦いたいからパス」
「俺も」
「ぐぅぅ〜お前ら〜〜〜!」

結局元諏訪隊VS三馬鹿+犬飼になった。無理。相手が強すぎ。早くタバコ吸ってきてと緑川に喫煙所に押し込まれて泣きながら一本吸った。メンソールが染みた。元諏訪隊ってなんだよ。嫌だよ。菊地原と交代したい。

ゆっくりゆっくりタバコを吸って喫煙所から出ると、もう諏訪以外誰もいなかった。なんだよ待っててくれないのかよ薄情だな。

「他はオペレーター探しに先に行ったぜ」
「だろうね。四人部隊オペレートしてくれる人見つかるかなぁ」

そんなことを話しながら、ブースに向かって歩き出す。諏訪はいつも私の歩幅に合わせて歩いてくれる。それが楽で甘えていた。会話の数は多くないけれど、ブースまでの僅かな距離を保たせるのは十分だった。
私の心は忙しなく急いでいて、まだ頭が痛かった。

「久々にお前が戦ってんの見たけど、動けてんじゃん」
「…こっちでも訓練はしてたし」
「やろうぜ、久々によ」

諏訪に誘われると、ぎゅっと胸が苦しくなる。心臓のあたりを握りしめたくなって、出来ずに彷徨った手が上着のポケットに潜り込んだ。かさりと手にビニールが触れて、そこに入っているものを思い出す。ひとつ息を吐いた。
私はポケットから線香花火を取り出し、諏訪に見せる。

「今日の夜、付き合ってくれるならいいよ」

薄く笑った諏訪の顔は、昔と何ひとつ変わらなかった。