模擬戦も夕食も入浴も終え消灯時間。ロビーと寝室前の廊下を保安灯にして正面玄関を施錠した。暗くなった廊下を抜け待ち合わせ場所の裏口へ行くと既に諏訪は居た。
私の手には缶ビールと花火とタバコ。諏訪は手ぶらだ。戸を出てちょうどいい場所を見つけ腰を下ろす。

「昨日の大爆発の中を生き残ったんだよ、この線香花火」
「すげえな」
「笑っちゃうよね」

缶ビールを開けて一口飲んでから、線香花火の袋を開け纏めて掴んで出した。切れてしまわないように慎重に手に取ると、ライターで火をつける。火球が震え、すぐぱちぱちと音を立てて火花を散らせた。

「いつ帰るの」
「明日の朝」
「そっか」

ぽつり、ぽつり。会話は多くない。昔はもっと話していたような気がするけれど、勝手にそう思い込んでいるだけかもしれない。たまに口を開いて一言二言交すと、また静かな時間が訪れる。諏訪が手に持っていたビールの缶をぱきぱきと鳴らした。

線香花火は、火がついてから落ちるまで、その流れを一生と表現している。牡丹、松葉、柳、そして散り菊。昔からこの静かな花火が好きだった。散り菊は少しの震えで落ちてしまうから、子供の腕には難しくて何度も何度もやったっけ。

1本目の花火はあっという間に火球を地に落としてしまった。上手く火花を散らせなかった火球は地面の上で転がって燃え尽きる。あーあ、と呟いてまた花火を手に取り火をつけた。
何度も、何度も、何度も。花火が上手く燃え尽きることなく落ちてしまう度に、少し落胆する。
その様子を見て、諏訪が口を開いた。

「一本じゃすぐ落ちちまうだろ」

そう言って諏訪は数えながら線香花火を手に取る。いち、に、さん、し、ご。纏めて火をつけると、線香花火は一本よりも大きな火球を作りながら、次第にぱちぱちと弾けていく。
勿体無い、とは思わなかった。なんでわざと数えたの。私に見せつけるようにして。
一本目が諏訪、二本目が堤、三本目が日佐人。四本がおサノだとしたら、五本目は誰になるの、ねぇ。揺れる視界が、早くなる心臓が、たまらなく苦しい。

「ひとつ言っとくけどよ」
「…何」
「俺達はお前が抜けたこと、どうも思ってねぇよ。お前がどう思ってるかは知らねぇけど」

大きな火球は、1本のときよりも大きく燃え、火花を散らす。ぱちぱちと、きらきらと輝く様をきれいだと思った。それでも花火は永遠に燃え続けることはない。ぽとり、と火が落ちると静寂に包まれる。何度も口を開こうとした。私だってどうも思ってないよ、と返したかったのに返せなかったのは、忘れていないからだ。
忘れたい記憶を忘れられないことを、一体誰のせいにしたらいいんだろう。今でも、ずっと、わからない。

「模擬戦で昔みたいな戦い方をしてるお前見て、正直嬉しかった」
「…そう」
「いつでもお前の籍は空いてる」
「…戻れるわけないでしょ、バカ」
「そっか」

そう言った諏訪の顔を、私は、見ることができなかった。