今日のLHRは席替えをするらしい。担任はクラス委員に一存しているようで教室には居らず、ざわざわと教室内が盛り上がる中、クラス委員が用意したくじ引きが教卓に置かれるのを静かに見ていた。振り返ると、後ろの席のカゲは興味がなさそうに寝ているし、隣の席の穂刈は頬杖をついて窓の外を見ている。

「カゲ、席替えだって」
「面倒くせぇ」
「なるべく近くがいいな、飯食うとき移動するの楽だから」

そう言うと、カゲはちらりとこちらを見てから、どうでもいいというように頭を掻いてまた机に突っ伏した。俺はまた教卓のほうに向き直ろうとして―その途中にみょうじさんの席があったから―つい、彼女の後ろ姿を眺めた。
肩のあたりで切りそろえられた髪は、色素が薄いのか柔らかい印象を受ける。みょうじさんは隣の席の友人と話しながら席替えを楽しみに待っているようだ。

クラス委員の合図で教室の端の列からくじ引きをしに席を立つ。ちょうど教室の真ん中に位置する俺の席は、次はどこになるのだろう。大した時間もかからずに、次は俺達の列が呼ばれた。
カゲに声をかけると追い払われる仕草をされたので、きっと起きたくないと言うことだろう。カゲの分まで俺が引いてくればいいか。そう思って席を立った。

「ごめん、カゲ寝てるから、カゲのぶんまで引いていいか」
「いいよいいよ、お願いね」
「ああ、ありがとう」

ティッシュの空き箱の一部を切り取って作られたお粗末な箱の中からくじを2枚引く。中身を見ずに席まで戻って、カゲに声をかけた。

「カゲのぶんまで引いてきた、どっちにする?」
「…どっちでもいい、鋼が決めろ」
「わかった」

黒板にはすでに席表が書かれている。くじ引きの紙はカサッと小さな音を立てて簡単に開いた。番号を把握して黒板を見ると、俺とカゲの席は窓際、それも前後だった。俺達よりも遅れて引いた穂刈は、くじと黒板を交互に見て小さなため息をついた。

「一番前だ、俺」
「どんまい」
「鋼とカゲは?」
「俺達は窓際。また前後」

穂刈の恨めしそうな視線を感じ笑っていると、全員がくじを引き終わったのか教卓前からクラス委員が撤収し、各自で机を動かし始めた。起きろ、とカゲに声をかけて誘導する。

夏だから、窓際はきっと暑いと思う。それでも、空の青さや開けた窓から入ってくる風、なびくカーテンは今の季節にしかない優しさを持っている。

「あれ、村上くん。村上くんも窓際なの?」

机を移動している最中、そう声をかけられれば、知った声に内心驚きながら振り向く。みょうじさん。彼女は窓際の一番後ろに机を構え、席についていた。

「俺も、窓際。みょうじさん、一番後ろなのか」
「そう!窓際の一番後ろの角なんてラッキーだよね」
「ああ、運がいいな」
「おい、俺の席どこだよ」

カゲがダルいと言わんばかりに口を挟む。俺達は後ろから二番目と三番目。みょうじさんの前の二席だ。カゲはどっちでもいいと言っていたから―俺は、みょうじさんの目の前に自分の席を置いた。

「カゲは俺の前」
「…あ?鋼が後ろかよ」
「どっちでもいいんだろ」
「あー、…いや、何でもねえ」

カゲは俺の前の席に机を置いて、残りの時間も変わらず寝て過ごすようだ。穂刈は遠くになってしまったし、LHRが終わるまで手持ち無沙汰だ。
ふいに、後ろから背中をつつかれる。とんとんっと小さな振動に気付いて振り向くと、みょうじさんが頬杖をついてこちらを見ていた。

「ねぇ、私さ、友達と離れちゃって暇だから少しだけお喋りしていい?」
「…ああ」
「放課後くらいしか、話したことなかったもんね」

そういって肩までの髪を耳にかけながら、みょうじさんは笑った。俺も、話してみたかった。何故だかそうは言えなくて、彼女の話に相槌を返した。他愛もない話をしながら、あっという間にLHRの時間は過ぎていった。

今日、初めて気づいた。
―みょうじさんが、とても話好きだと言うこと。