来間先輩と鈴鳴支部でシフトの確認をしていたときのことだった。
「そういえば、文化祭。クラスで何やるか決まった?」
来間先輩にそう言われて、鈴鳴支部のリビングに置いてあるカレンダーを見る。何気ない毎日はあっという間で、気付けば夏休みも間近というところだった。ボーダーの上層部は学校行事を優先させたがるので、文化祭の日は元々シフト表にバツがついていた。
来間先輩が用意してくれたアイスコーヒーの氷が、からんと音を立てる。
「確か、かき氷かフランクフルトでモメてたみたいです」
「モメてた、かあ。わかるなあ、最後だもんね」
「皆、気合入ってるみたいで」
氷が浮かんでいるコーヒーに口をつけると、体の内側から冷えていくようだ。連日暑い日が続いていて、来間先輩はこうやって水分補給に気を使ってくれる。微糖なのにスッキリした味のコーヒーがお気に入りだという。
来間先輩はソファーに背中を沈めて、天井を一度見上げた。懐かしいなあ、という声がする。
「俺のときは焼そばをやったんだけどね、夏の暑い日に焼そばなんてやるもんじゃない!って当日になって怒る人がいたなあ」
「確かに大変ですね」
「そう。だから、かき氷がいいんじゃないかな」
いつものように来間先輩は柔らかく笑って、アイスコーヒーに手を伸ばす。汗をかいたグラスから雫が落ちて、テーブルに跡を残した。
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―来間先輩とそんな話をしたのはついこの間。教室について席に向かうと、後ろの席のみょうじさんは既に着席していた。
「おはよ、村上くん」
「おはよう、みょうじさん」
「ねえ、今日までだよね。どっちにするか決めた?」
そうだ、今日は文化祭の出し物を決める日だったっけ。一応、と返せばみょうじさんは小声で、内緒にするから教えて、と笑いながら言った。
先日―来間先輩と話したときにどちらにするかは決まっていた。正直どちらでもいいが、来間先輩がかき氷を推す理由に間違いがなかったからだ。
かき氷、と言うとみょうじさんは「なるほどね」と言ってうんうんと頷いた。
「じゃあ私もかき氷にしようかな」
「しようかな、って…自分で選ばないのか?」
「うん、だって私、部活あるから店番とか出来ないし」
だから、村上くんがやりたいものを応援する。
みょうじさんはそう言って肩にかかる髪の毛を指先で弄った。
俺もやりたいってほどじゃないけど。
そうは言えずに、とりあえず、ありがとうと返事をした。
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結果として、多数決は大差でかき氷が勝った。カゲがあちい日にフランクフルトなんかやってられるか馬鹿と言ってのけたからだ。カゲは態度と見た目で敬遠されることも多い人間なので怖がられたかと思いきや、まともな意見だったので聞き入れられたらしい。
フランクフルト派の穂刈は涙をのんでいたが、数分後には祭りは何でも楽しいんだと意見を翻していた。
「かき氷だね」
「うん」
「村上くんは何味が好き?」
「俺はイチゴかな」
「定番だよね!」
席替えからよく話すようになったクラスメイトはそう言ってまたきらきらと笑った。みょうじさんは?と尋ねると、少し悩んでからブルーハワイと答えた。
「舌の色青くなるでしょ、あれが好きで」
「好き…なのか?」
「なんか非現実感あっていいでしょ。普段の生活では絶対あの色にならないし」
なんか―なんとなく、よかった。何がって、席が前後で。きっと、席替えがなかったらこんなに話すこともなかったと思うのだ。
「文化祭楽しみだな」
「うん!」
その楽しみというのはクラスの出店のことも、今年が最後だというのもあるけれど―きっと、俺の心のうちにはみょうじさんのバンドのことも、少なからず入っているのだ。
見に行けたら、いや、見に行けたらじゃない。しっかりと見に行こう。毎日放課後練習しているみょうじさんの勇姿を何よりも楽しみにしているんだから。