メッセージアプリに通知がたくさんついていて、何かと思って開いたらクラスのグループ会話が動いていた。「夏休み期間中の文化祭準備日」「13時から」「その後の予定」「ファミレス」だなんて単語を流し読みしてだいたいの内容を把握する。
日々は可もなく不可もなく、高校は期末テストを終えて夏休みに突入した。夏休み明けには文化祭がある。
グループ会話に既読だけつけて、カゲの連絡先を開いた。「文化祭の準備でるか?」―聞くだけ無駄かと思ったが、念の為。赤点者は夏休み中に補講もあるし、ついでに寄れるんじゃないかと思ったのだ。俺は赤点取っていないけど、カゲが。
メッセージを送信して数分後。「いかねえ」と来て、「そうか」と返した。





教室のドアを開ければ、何人かはすでに作業を始めていた。挨拶をしながら、床に置かれたダンボールを避けて自分の席まで向かう。隅に寄せられた机は夏の暑い日差しが降り注いでよく熱されていた。鞄を下ろし、クラス委員に声をかける。

「手伝えることあるか」
「じゃあ村上くんにはメニュー表を作ってもらおうかな」
「わかった」

教室内に掲示するものなので大きめのサイズだ。教室の空いている床に座り、画材を並べる。クラスの美術部員が持ってきた絵の具を貸してもらい、パレットに出した。全体的にダンボールを水色に塗ってから、上から黒で文字を書き、白で文字の枠をつけるらしい。完成予想図をもらったため、わかりやすかった。

少し経って、ようやくダンボールの全面が水色に染まった頃、穂刈がやって来た。午前中任務だったそうだ。穂刈はクラスのメインの看板を手伝うらしく、少しだけ俺と話してから教室の人だかりの方へ向かった。
黙々と作業をする。地道な作業は苦手ではなかった。ダンボールが乾いたので、シャーペンで文字のアタリをつけてクラス委員に確認をお願いした。その間に飲み物を飲む。蒸し暑い教室にいるだけで、何もしなくても汗がじんわり浮かんだ。

「あれ、思ったより人いるね」

開け放している教室の入り口からそんな声が聞こえて振り向いた。みょうじさんだった。
みょうじさんはまっすぐ俺の元へ来て―俺の元へというか、自分の席に来たんだけど―鞄を下ろした。肩にはギターを背負っている。

「みょうじさんも来たんだ」
「本当はもっと早く来るつもりだったんだけどね。午前中から学校に居たんだけど、練習してたら時計見るの忘れちゃってた」

みょうじさんはギターを寄せた机の上にそっと横たえた。俺もペットボトルを鞄の脇に置いて、クラス委員の元へさっきまで作業していたものを取りに行く。

「村上くん、これ、文字のアタリはいいんだけど、もう少し字を見やすくしてほしいかな」

クラス委員からダンボールとアドバイスを受け取った。もう少し、見やすく。丸い字がいいんだろうか。男の字だから、確かにキレイに書かないと文字が見づらそうだ。
「それ、私がやろうか」と後ろからのぞき込んできたみょうじさんが言った。完成予想図を見せると、文字のあとをなぞるのね、と呟いた。

「私が文字を書くから、村上くんはなぞってもらっていい?」
「わかった」
「二人でやれば、あっという間に終わっちゃうかもね!」

さっきまで作業していた場所に戻ってダンボールを置き直して、二人して床に座った。筆を渡すと、みょうじさんは黒い絵の具のチューブを撚る。
午前中から練習してたのか。筆を握るその手で、ギターを鳴らして。手元をじっと見ていたら、「そんなに見られると緊張するなあ」とみょうじさんが笑った。





「みょうじさんも行くよな、飯」
「ファミレスでしょー?行くよ。お腹すいたね」
「ああ」

18時を過ぎたところで、作業は一段落した。まだまだやることはあるが、さすがに皆の集中力も切れてきたので、本日は終わりにして皆でファミレスに行くらしい。あまりクラスでそういった集まりがないので少し楽しみだった。

教室内を皆で掃除して、連立って昇降口まで向かう。ファミレスは学校からそう遠くない場所で、放課後はいつも学生の溜まり場になっていた。クラス委員が予約をしていたおかげで待つことも無くスムーズに入店でき、4人がけの席に穂刈と腰を下ろした。

「ここ空いてる?座ってもいい?仲いい子、今日来てなくて」

空いてるよ、というとみょうじさんは俺の横に腰を下ろした。メニューを穂刈と俺にそれぞれ渡す。穂刈は無言でメニューを受け取って、すぐさま肉のページを開いていた。

「穂刈くんも、村上くんも、よく食べそう」
「よく食うぞ、鋼は」
「あはは、やっぱり」
「米を」
「お米?」

ご飯好きなの?と聞かれたので頷く。白米は好きだ。大盛りにしても、足りないくらいに。そう伝えると、みょうじさんはけらけらと声を出して笑った。少しだけ恥ずかしくなって、みょうじさんの好きな食べ物を聞いた。「パフェかなあ」と返事があって、メニュー表のスイーツの欄に指が動いた。

「イチゴたくさん乗ってるやつとか、チョコのとか、何でも好き」
「女子って感じだな」
「村上くんは?嫌い?甘いもの」

なぜか「好き」と言えなくて、「嫌いじゃない」とだけ、小さく返事をした。