入浴を終え大浴場を出ると諏訪さんが居た。タオルを首から下げベンチでパックジュースを飲んでいる。髪の毛から水気は飛んでいたので、もしかしたら暫くここにいたのかもしれない。会釈をして通り過ぎようとすると声をかけられた。

「出水、昨日名前にオペレーターやらせたんだって?」
「そっすよ。どうかしました?」
「上手かったろ、あいつ」

ああ、その話。近くにあった自動販売機からジュースを買って諏訪さんの隣に腰掛けた。ストローを刺して一口飲む。本部の自動販売機では見たことのないジュースは甘かった。

「どんな感じだった?」
「えー、割とそこら辺のオペレーターと遜色ない感じでしたけど。本部オペレーターって言われても驚かないレベル」
「なるほどな」

ズズッと諏訪さんのジュースが音をたてる。俺がここに来る前からとっくに空になっていたのかもしれない。口寂しいのか、ストローには噛み跡がついていた。目の前を通り過ぎる隊員たちをぼんやりと見ながら俺もジュースを飲んだ。

「あいつ元々オペレーターにさせられそうになってたんだよ」
「そうなんですか?」
「上が適正あるって言ってさ。でもあいつは嫌だーって言って狙撃手なったんだよな」
「最初銃手じゃなかったですもんね、名前さん」

俺と名前さんが出会った頃のことを思い出す。あの頃は名前さんは狙撃手だった。持ち前の明るさで知り合いが多かった名前さんは俺ともすぐ仲良くなって、入隊時期を聞いたときに死ぬほど驚いた。確か諏訪さんと同時期。俺より何ヶ月も早かった。名前さんの同期は皆既にB級以上に上がっていたのに、彼女だけC級の隊服を着ていたのを覚えている。

「狙撃手でB級なったら俺のチーム勧誘しようと思ってたら、あいつセンスなくてB級にあがれなくてよ」
「その話聞いたことあります」
「言うなよ。その話するとあいつ怒るから」

スナイパー合同訓練で全身マーカーだらけになった名前さんは当時めちゃくちゃ笑いものになっていた。狙撃成功回数が被弾回数を下回ることはざらで3週連続上位15%なんて夢のまた夢、名前さんの順位を見つけるときは下から探したほうが間違いなく早かった。後輩もどんどん彼女の成績を追い越し、名前さんは陰で万年C級と笑われていた。

そう、名前さんは戦闘員に向いていない。実力だけで言ったらB級下位にすらランク戦で勝てるかどうか。トリオン量も少ないし、ボーダーは明るさと人柄だけで任務が務まるくらい甘くない。
それでも、あの人が努力を続けたのは。

「俺も聞いたことありますよ、諏訪さんの知らない話」
「俺の知らねー話?」
「狙撃手のセンスないって言ってきたやつが銃手だったから、負かすために銃手になったって話ですけど」

そう言って笑うと、諏訪さんはどこか遠くを見つめながら、空のパックジュースをゴミ箱に投げ入れた。