色とりどりの秘密

空気に色があると気づいたのは名前さんを好きになってからだった。だって本当なんだ。彼女の周りはやさしげな色で溢れている。
色は、例えるなら、なんだろう。桜のような淡いピンク色で、夏は紫陽花のような柔らかい紫色だ。秋と冬はわからないけど、きっとキンモクセイのような溶けるオレンジかもしれないし、冬…冬はなんだろう。冬って花咲くのかな。

「どう思う米屋」
「何が?」
「空気に色があること」
「ねーよそんなの」

米屋は笑って俺の肩を小突いた。こいつまーた俺のこと馬鹿にしてんだろ。しょうがないじゃん、好きなものは好きだし、常に考えてしまうのも当たり前なんだから。
米屋と10本を終えて、休憩がてらソファーで会話をする。いい相談相手だと思うし、なんだかんだ一番応援してくれているのはこいつだと思う。俺はソファーに座ったまま両腕を真上に伸ばし凝り固まった肩を解す。

「天羽が色が〜っていうじゃん?ああいう感じ?」
「んー、なんつーかオーラじゃなくて、その周りの空気も全部」
「尚更わかんねえ」

常人にわからねえ世界だわ。米屋がそう言って笑うから、俺はもしかしたら人間じゃなくなったのかもななんて思った。神様に恋をした人間はもう人間じゃないのかもしれない。それが何かはわからないけど。

「恋する男は辛いな〜、ほらもう一本やるぞ弾バカ」
「うっせー、10-0で勝ってやる覚悟しろ」
「あ、名前さん」
「おっ!?あっ!!?」
「嘘だよ馬鹿」
「…ぜってえー負かす」

前言撤回。こいつはただ俺で遊んでいるだけだ。立ち上がって先にブースに入っていく米屋の後ろ姿を追いかけ、俺もブースに入った。名前さん以外の誰の周りにも、色は存在しない。