数日前、「諏訪さん、日曜暇?車買ったからドライブしない?」と名字に突然誘われた。突然どうした。気味が悪いので断ろうとすると、「私とドライブするのと、B級の薄給で何年ローン組んだか知るのどっちがいいですか」と脅されたので、仕方なく付き合うことになった。
待ち合わせは禁止区域からそう離れていないコンビニの駐車場だった。時間ギリギリに着くと、既に名字は到着していて、薄いピンクの軽自動車の脇に立っていた。諏訪さんこっち、と手を振られる。着ているのをよく見る変な犬の絵が描いてあるTシャツにショートパンツのラフな格好だった。
助手席を促され乗り込むと、名字はまだおぼつかない手つきでシートベルトを締め、エンジンをかける。あぁ、そっかこいつ免許取りたてだっけ。
「で、今日どこいくんだ?」
「え、決めてないですよ。どこか行きたいとこあります?」
「決めてねぇの」
「ドライブって言ったじゃないですか、気の向くままに行くんですよ」
適当って言うんだろそれ。名字がゆっくりとアクセルを踏むと車は動き出し、車道に出て本当に何も決めないまま運転しているようだった。
天気は晴れ、それも快晴。こんな日に付き合ってドライブしてやるなんて、俺も本当暇だな。
数分走らせたところで、赤信号で停車する。そのタイミングで名字が口を開いた。
「いやぁ、誘えそうなの諏訪さんだけだったんだよね」
「今日太刀川とか非番だろ?他にもいただろ」
「私が教習中に坂道で脱輪したって話したら一生乗らないって言われちゃって」
「待ってちょっとお前マジで待って」
「東さんは忙しそうだし、風間さんは夜勤明けなので、諏訪さんしかいなかったんですよ〜」
待て待て待て、坂道で脱輪?どういうことだ?理解が追いつかない頭に、名字から自動車学校の教官が「さすがに死んだと思った」って言ってたと追い打ちがかかる。心の中で手を合わせた。次は俺かもしれない。デスドライブかよ。
それと、ちゃんと年の近い隊員と、名字の隊長の東さんには声かけてたんだな。あれ、アイツは?名字と同い年の。
「…二宮は?アイツも非番だろ」
「諏訪さん、酷ですね。二宮助手席に乗せて運転したいですか?アイツ絶対『ブレーキの踏み方が悪い。死ね』とか言い出しそうなんで嫌です」
「あ〜まあ分からなくもない」
「終いには『代われ、お前じゃ無理だ俺が運転する』とか言って運転させてくれなさそうだし」
「…お前、運転下手な自覚あんの?」
信号が青に変わって、またもやゆっくりとアクセルを踏んで発進する。今のところ、特段おかしいところはないし、名字も慎重に運転しているようだ。そりゃあ坂道で脱輪してたらそうなるよな。まあ何かあれば教えてやればいいし、最初は誰だって慣れないだろう。
名字は外を眩しそうに見つめながら、前方から視線を逸らさずに言う。
「ありますよ、だから諏訪さん、付き合ってくださいね。諏訪さんと一緒なら、きっと楽しいですから」
その言葉はちょっと。
お前ほんとそういうとこ。
諏訪さん、車買ったよ!