ゴースたちに囲まれる彼がうつくしくて、消えてしまいそうで、静かに息を潜めた。気を張る私の様子を気にしてか、すり寄ってきた相棒をそっと撫でる。
連れて行かないで、と叫び出したくなるのをぐっとこらえて音を立てないようしゃがみ込んだ。どうしても、私ではあのポケモンたちに敵わない。……きっと、もしそのときが来たとしてもどうすることもできないのだろう。
手足が、こころが冷える。ふるり、震える身体を誤魔化すように相棒を抱きしめた。あたたかい。いのちの、あたたかさだ。
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「ナマエ」
「……終わったんですか」
「ああ。待っていてくれてありがとう」
帰ろうか、と差し出された手に躊躇していればサッと腕をとられ引き寄せられる。抗うこともせずぽすりとその体に身を寄せれば背中に回された腕が私を包み込んだ。
あたたかかった。その熱が離れないように私も彼の背中へと腕を伸ばす。ぎゅうと縋り付く私を抱きしめたまま、マツバは嬉しそうに笑っていた。
まだ此方に帰ってきてくれる。その安堵が私の口を滑らせる。
「マツバ」
「どうしたんだい」
「いつか、ひとをやめてしまいそうで……こわいよ」
「もしそうなってもきっとキミのそばにいるよ」
その方がキミの近くには居られるかもしれないね、なんて笑った顔が近付く。こちらの気も知らないで。
咄嗟にその端正な鼻を掴んでやれば、彼には珍しく不意を突かれたようだった。キョトンとした顔なんていつぶりだろうか。
「それはこわいからいや」
「えぇ……」
緩んだ腕からするりと抜け出して、私の相棒のもとへと戻る。振り返ればマツバは苦笑していて、とても消えそうには見えない。確かに其処に存在している、ひとりの人間だった。そっと息を吐いて、でも安堵は顔に出さないように。相棒をボールに戻してから帰るよと歩き出せばすぐに追い付いたマツバは私の手を取った。
「手を繋ぐくらいは良いだろう?」
返事の代わりにぎゅうと握り返せば嬉しそうに笑うものだから、また彼の人間らしさを感じて私は心から安心するのだ。
「……そのまま」
「ん?」
「ひとのままだとそばにいてくれないの」
「!」
「っ、いまのなし!ニヤニヤしない!!」
「はは」
笑って足を止めてしまった彼を促すように手を引いても動いてくれない。帰るんでしょ、とその顔を覗き込めばとろりと甘い瞳がわたしを見つめていた。とくり、わたしの心臓が声を上げる。
「ずっと一緒だ」
「……」
「ナマエが嫌がっても、ずっと」
離してやれないから。そんな怖い事を言っておきながら、顔は甘く頬に添えられた手は優しいものだから私は私で離れられないなあと思うのだ。
諦めて瞳を閉じればそっと唇が降りてくる。ああ、あたたかい。いのちのあたたかさだ。