清明

清明:清々しく爽やかな春。すべてのものが生き生きとして清らか。



 ここ玉阪の街で暮らす人々にとって、話題となるのは雑誌やネットの流行りだけじゃない。この街のシンボルである玉阪座と、そこが運営するユニヴェール歌劇学校は一年を通して期待と注目を集める存在だった。年5回の成果披露の場である公演は毎回チケットの争奪戦が行われているし、4つのクラスと個人の評価結果は各クラスや学生たちを応援するファンたちもまた一喜一憂するのである。
 ……と言っても、去年からは特定の個人の話題がダントツで多いのだけれど。

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「今年もおもしれーのが入ったんだよ」
「……去年とはずいぶんテンションが違うね?」

 数週間ぶりに店に顔を出したフミがこちらの顔をみるなりそう言うものだから、思わずお茶を出す手が止まり首をかしげた。
 彼とは子供のころからの付き合いになる。高科の皆様は長いことうちの和菓子をご贔屓くださっていたというし、祖父や父もまた高科流を応援しているのだという。挨拶回りの途中で寄っていただく度にわたしもご挨拶はさせていただいていたが、大人たちが話している間にこどもたちだけで時間をつぶすこともままあって私たちが親しくなるのは自然な流れだった。

 去年の秋くらいから、フミは変わったように思う。ユニヴェールの中で起こっていることも、彼自身が何を得て何を考えているのかも知らないし分からない。それが良いことなのか、悪いことなのかさえも。それでも、なんとなく、どこかわからないところへ行ってしまいそうな雰囲気が落ち着いたように思うのだ。

「去年は……まあ。受け入れてやる体制どころか先輩も俺らも周りが見えてなかったっていうかな」

 その分今年はマシになったんじゃねーかな。お茶を飲みつつそう笑うフミがあまりに生き生きとしているものだから、口角が上がってしまうのが自制できずそっとお盆で口元を隠した。友人のように接してはいるけれど、少なくともここにいる間は店員とお客様の関係なので。

「入試のときから面白そうなやつがいるなって目はつけてたんだけどさあ、やっぱクォーツに居るの見ると楽しみだわ。気合いも入るし。……演出と脚本やってるやつもさ、生き生きして書いてるよ」
「ってことはまた忙しくなるねえ」
「そうだな。ま、まだ稽古どころか顔合わせしたばっかりだし、もうちょっとはゆっくりできると思いてーな。休めるときに休んどかねーと」
「ふふ、ユニヴェールの1年は本当に忙しそうだからね」
「新人公演の練習始まっちまったらこうしてゆっくりする時間もとれないからさ。今年はなーんか起こりそうな気もするし」

 お茶と、落雁や季節の和菓子。
 堅苦しい伝統や格式といったものを忌避し実家からも離れている彼だったから、このお店を忙しい日々の合間の休息に利用してくれることも、家の繋がりのひとつともいえる私と懇意にし続けてくれることも有難くて、嬉しくて、かけがえがなくて。このままずっとこの関係が途切れないといい。

良い風がクォーツに入ってきたみたいで良かったなあ。ふと見上げた空は青く澄んでいて、ついとツバメが飛び去っていくのが見えた。
今年も、彼らの生み出す作品を心待ちにする1年が始まったようだ。