福城聖と他大学生ちゃん

※'24映画ネタ 事件後 本編ネタバレ含
※何話か続きそうなネタの一部分書き出し 突然はじまって突然おわる



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語るだけ語って、しばらく二人とも沈黙して。
きっと、こんなことを語ってもナマエさんは戸惑うだけだろうということは理解していた。していたからこそ、こうなるまで教える気も伝える気もなかったのだ。

「学校はどうするの?」

ふと、ナマエさんは口を開いた。
学校。

「そうだな……正直、ちょっと悩んでる」
「……医者、目指してほしいな」
「え?」
「聖くん頑張ってたの知ってるし、それに、お母さまの影響だって言ってたから」

確かに母の影響だという話はした。でもそれは、プロジェクト中の軽い雑談で出た話題のひとつでしかなくて。
そんなことすらも覚えていてくれた驚きと、嬉しいと思ってしまう自分への憤りとで口を閉ざした僕を見て、ナマエさんは困ったように微笑んだ。

「それなら、お母さまの跡を継いで立派なお医者さんになった姿、見せたいんじゃないかって」

まあ私の勝手な思い込みなんだけど。関係ないのに口出してごめんね。
そんなことない、とは言えなかった。医者を志すことは自分にとっての希望であったが、斧江圭三郎の宝の破壊という願いもまた自分にとっての真実だったのだ。

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「忙しいのに会いに来ちゃってごめん、帰るね」
「っ、待って!」
「!」

立ち上がったナマエさんの腕を思わず掴んでしまい、慌てて手を離した。パッと両手を肩まで上げるも、ナマエさんは困惑したように視線を逸らしている。
引き留める気などなかった。そもそも、背負っていたものを教えるつもりなんてなかったのだ。
捕まって、父さんからのメッセージを受け取って、あのときの聖は余裕がなかった。なかったからこそ、あのときまだ市内にいた和葉ちゃんではなく、ナマエさんのことを考えてしまった。だからだろうか、手紙の最後にあんな一文まで書き足して。

ちらとこちらを様子を窺うナマエさんと目が合った。再び勢いよく視線を逸らされ苦笑しそうになるが、その頬がほんのりと色づいていることに今更気付く。
気にしていないように見えていたから、もしかしたら前半の内容しか読んでいないのではとすら思っていたけれど。
あの文章までしっかり読んでいたとしたら。
あの影響でこの表情が引き出せたのだとしたら。
そっと上げていた腕を下ろし、手持ち無沙汰に頬をかく。自分の頬も熱い気がする。もしかしてを想像してしまう。果たすべき使命から放り出された自分の、一度は切り捨てた未来を願ってしまう。

「え、っと」
「……」
「送るよ」
「……ありがとう。それじゃ、お願いしようかな」

道、よくわかってなくて。ホテルまでいい?なんて困ったように笑うのが、彼女なりの優しさからくる誤魔化しだと気付いてしまったから。
ぎゅうと締め付けられる気持ちを押し込めて、こちらだよと足を踏み出した。

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「向こうにはいつ戻るの?」
「実は突発で来ちゃったから何も考えてないの。とりあえずホテルだけ抑えてあるけど帰り決めてなくて」

どうせなら明日の夕方便にして昼間観光しようかなあ、おすすめの名所とかある?なんてこちらを見上げてくる姿にグッと胸が詰まる。また勝手に伸びそうになる手を意識して引き留めて、それから呼吸を整えて、

「もしよければ、僕に案内させてくれないかな」
「え?」
「函館。絶景ポイントもあるんだ」

どうかな、なんて笑いかけているつもりだけれど彼女からどう見えているんだろう。心臓がうるさく跳ねて、口も乾く。和葉ちゃんに声をかけようとしたときは、こんなことにならなかったのに。


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