はるがすみ
[二]倉庫
マイネ(オルエド)
----ザーザー
「エド…少しいいだろうか」
建物のあちらこちらで聞こえていた談笑の声も微かになる頃、私はエドの部屋を訪ねた。街の様子について、彼の目線から聞いておきたい事があった。
「……?エド、いないのか?」
私のノックに返事がない。この時間に部屋を離れるとも思えないが…食堂に水でも貰いにいっているのだろうか。
「エド…?」
無遠慮とは思いつつも、ドアノブを回してみると簡単に開いた。部屋に入って周囲を見回すと、部屋の主は掛け布もかけずにベッドで眠っていた。
----ザーザー
「これでは風邪をひく…」
毛布を掛けようと近づき、気づく。エドの顔色があまり良くない。既に風邪でもひいてしまっただろうか。
----ザーザー
彼の肩まで毛布を掛けてからふと気が付く。
「そうか、雨が降り始めたのだったな」
いつからだろう、必ずというわけではないが、エドは雨の日の夜になると気分が沈んだり、嫌な夢を見るようになっていた。その理由が思い当たらないわけではないが、あの件に関してはエドの周囲もエド自身の中でも既に消化されたものだと思っている。
「それとも消化されたから、だろうか」
記憶の力は強い。特に幼少期からの記憶は。
「お前は真っ直ぐ前を見据えているというのに。お前の中にあるものが後ろを振り返らせようとしているのだろうか…」
だとしたら残酷な話だ。だかもしそうなら、それを乗り越えるしかない。
「もし私にできる事があるとすれば」
エドの手をそっと握る。
「こんな夜に傍にいること、だろうか。なんとももどかしいな」
心の中で何度もエドの名を呼ぶ。大丈夫と言うように。少しでもエドの気が和らぐように。本当に眠れるように。
「子守唄代わりにでもなればいいのだがな」
----ザー…
目を覚ますと、掛けた覚えのない毛布と、握った覚えのない手が自分を包んでいた。
「……オルフェ?」
いつの間に来ていたのだろうか。
「起こしてくれても良かったのに」
椅子に座ったまま眠る彼の寝顔を見る。
「……これは起こせないな」
オルフェも同じ様な気持ちだったのかも。
「そういえば」
あんなに沈んでいた気分が不思議と落ち着いている。
「お前のお陰かな、オルフェ」
子守唄でも歌ってくれてたりして。
「なーんて」
想像して少し笑う。静かな雨音と静かな室内。
「こういうのも、悪くない」
意味もなく、大丈夫じゃないか、なんて呟いて。
「おやすみ、オルフェ」
眠りつく耳に入るのは穏やかな雨音だった。
初:2010.5.26
襲われて崖から落ちて気失ってる所のエドの画はいつまでたっても最高に綺麗です。
ALICE+