はるがすみ
[二]倉庫

ひとのいきるせかい(PP/縢狡)


ノナタワー内の一室。
最新のシステムを支えるためのコードが這う天井は、却って古めかしい印象を見るものに与える。
そんな薄暗い部屋に二人の男の姿が浮かぶ。
一人は力なく床に倒れ、もう一人はその者を押さえつけるように力をかけている。

狡噛慎也と槙島聖護。
厚生省の本部にして象徴であるノナタワーの中で二人は激しい戦闘を続けていた。

均衡が破れ事態が動いたのはつい先ほど。
槙島の元に辿り着くまでにかなりの怪我をしていた狡噛が、その隙を突かれたのだ。

狡噛の動きを止めた槙島は、忍ばせていた簡易注射器で何かの薬品を狡噛の身体に打ち込む。
憎き相手を前にされるがままの屈辱を隠すことなく、狡噛は動けぬ身体で鋭い眼だけを槙島に向ける。

その狡噛を興味深そうに見つめがら槙島は手首に付けていた携帯端末を操作し始める。
何をしているのか。狡噛が抵抗の色を強めたまま相手の動向を見つめていると、槙島は満足そうな笑みを浮かべた。

「今から面白いものを見せてあげよう。」

槙島が再び手元の携帯端末を操作すると二人の前にどこかの部屋を映した映像が表れる。いま二人がいる部屋にとてもよく似た場所だ。
狡噛が警戒しながらも映像を見ると、その部屋に一人の男が入ってくる。頭にはサイマティックスキャンを欺くヘルメット。
そこで槙島が三度端末を操作した。すると、男の被っていたヘルメットのランプが消える――機能が停止したようだ。
ヘルメットの機能が止まるとほぼ同時に、警告アナウンスが鳴り響く。

『犯罪係数318。執行モードに移行。対象を自動排除します。』

何が起きているのか理解できずに慌てる男に、部屋の天井部に取り付けられた装置から放たれた光線が突き刺さる。
そして男の身体は見る間に膨れ上がり、数多の肉片と血しぶきを振りまきながら崩れ落ちた。
それはまるで、エリミネーターモードのドミネーターだった。

「な…今のは、」
「どうだい、面白いだろう。本来ならば監視官か執行官にしか与えられない力、ドミネーター…それを再現してみたんだ。もっともこちらの装置は完全自動システムだし、パラライザーのようなモードもない。犯罪係数が300を超えた対象を容赦なく排除するんだ。」

映像内の部屋に別の人間が入ってくる。ヘルメットも何もしていないが、犯罪係数が規定値未満なのだろうか、装置は沈黙したままだ。

「こんなものを作ってどうするつもりだ。」
「最初はただ面白そうだから作ってもらっただけなんだ。だって公安局にしか与えられない力なんて、不公平だろう。でもいざ完成してみたら使いどころに悩んでね。何かいい活用法はないかと考えいたところに、君たちがやってきた。」

槙島が狡噛を見やる。その瞳は獲物を見つけた蛇のように鋭く、新しいおもちゃを前にした子供のように純粋だった。

「いまもう一つ、別の映像を見せよう。」

先ほどの映像がアウトし、別の場所が映される。そこに一人の人物が映し出される。
ドミネーターを手に走る、縢だ。

「縢…!?」
「ハウンド4、縢秀星。彼は、君を助けるためにこちらに向かっている。」
「…縢をさっきの部屋に誘導するつもりか?」
「そう、彼の元にはすでに僕からの招待状が届いているはずだ。だからあんなにも急いでいるんだろうね。」
「あいつの犯罪係数は300未満だ。不測の事態で多少は興奮しているだろうが、簡単に規定値は超えない。」

縢をあの部屋に誘い込んだところで装置が作動しなければ意味がない。
縢の犯罪係数は比較的安定していることを狡噛は知っている。

「確かに簡単には、超えないだろうね。…でもね、あの部屋はいま僕たちがいる場所の隣にあるんだ。ほら、そこの壁、あの向こうだ。しかもね、その壁はただのホログラムなんだ。」
「何…?」

槙島が身動きの取れない狡噛に手を伸ばす。

「ホロを消せば向こうからこちらは丸見えだ。そして、ハウンド4は君のことが大好きだ。愛しているのだろう?」

そのまま狡噛の着ているシャツのボタンを一つずつ外していく。

「っ、なにを、するつもりだ…!」
「愛しい君が、憎むべき僕に犯される。そんな姿を見て、果たして彼のサイコパスは無事でいられるだろうか?」

槙島の言葉を聞いて抵抗を強める狡噛を楽しそうに見つめながら、槙島は露わになった狡噛の肌に直接手を伸ばした――


**


縢の携帯端末に送信元不明のメッセージが送られてきたのはほんの五分前だ。
本文はなにもなく、ノナタワー内のある部屋を示したマップが添付されているだけだった。

「これが罠じゃなきゃなんだってくらい怪しいよなー。」

今が通常時の出動中で、連絡を取りたい人とすぐにでも繋がる状況であれば、縢はこんなにも不審なメッセージなど無視していただろう。
しかしそうできない理由が縢にはある。

「愛する人がピンチなら、どんな状況でも助けに行くのが男ってもんでしょ。」

はっきり言って今の状況は非常に悪い。
宜野座たちとも思うように連絡はとれず、槙島の意のままとなってしまったノナタワーの中では何が起こるかわからない。

それでも縢は、このメッセージが逆に自分にとってのプレゼントだと考え、走る。

狡噛慎也。縢にとって最も大切な人を取り戻すために。


**


「ここか…?」

縢がメッセージに添付されたマップの示す部屋の前までたどり着く。
扉の横には電子ロックの端末が設置されているが、どうやらロックはかかっていないようだ。

「いらっしゃいってか。ったく。ここまであからさまだと逆に気楽だわ。」

縢は逸る気持ちを抑え、慎重に扉を開けて中に入る。

部屋の中は薄暗いが、狭い分人の姿が見えないことはすぐにわかる。
しかし一歩進んだところで縢は立ち止まる。
人は見えないのに、どこか人の気配がする。

「やぁ、ハウンド4。よく来たね。」
「…!お前、槙島?」
「僕からの招待状を受け取ってくれたみたいで嬉しいよ。」

声だけが聞こえ姿を見せない槙島に縢は警戒を強める。
槙島の声には電子的な響きが含まれておらずまるで同じ部屋の中にいるようだった。

「…あんたは姿も見せない弱虫かい?」
「君のためだよ、ハウンド4。扉を開けていきなりこんな光景を見せられたら君の心はひとたまりもないだろう。」

槙島の言葉が終わると同時に部屋の正面の壁にノイズが入る。
すぐに壁が消え、代わりに縢の目に映ったのは、ここまで追い続けてきた槙島聖護とその槙島に組み敷かれた狡噛の姿だった。

「っ…!てめぇ…コウちゃんに何してんだ…!」
「なかなか良い趣向だろう?君の愛してやまない狡噛慎也がこんな姿にされて。」

あまりの光景に驚きと怒りを隠せない縢。
その眼にははっきりと憎しみの色が映り、獰猛さを見せ始める。

「や…だ、めだ、かがりっ。みる、な…!っ…この部屋から、早く、出ろ…」
「な…何言ってんの!いいから待ってて、すぐ助けるから!」

部屋に設置されたシステムを知る狡噛が縢に請う。
一方で縢は完全に頭に血が上り、何が何でも狡噛を助けようと前に出る。
槙島は狡噛にかける手を止めないまま二人の様子を見つめる。

「かがり、だめだ。たのむ、から、落ち着け…!それ以上は、っぅ…」

狡噛がいま一度縢を止めようと叫ぶ。
そこに、無情な人工音声が割り込む。

『犯罪係数360。執行モードに移行。対象を自動排除します。』

「なんだよ…!?」
「さようならだ。四番目の猟犬。君もなかなかに興味深い存在だったよ。」
「かがりっ…!」

悲鳴のような狡噛の声を切り裂くようにオートマティックドミネーターから放たれた光が縢の身体に突き刺さり、そしてその身体を肉片と変えた。

「あ…あぁっ…かがり…!」
「やはり昔から言うように“4”という数字は不吉なのかな。それとも“ハウンド4”という名が呪われているのか。」
「きさまっ・・・まきしまぁ!」
「っ!?」

狡噛が槙島を殴り飛ばす。動けないと思っていた狡噛の行動に槙島は驚きを顕わにした。

「すごいね…驚いた。君に投与した薬、普通だったら指一本動かせなくなるはずなんだけれど。…でも、さすがの君も今のが本当に最後の力だったようだね。」

狡噛の身体が揺れ、再び冷たい床に崩れ落ちる。息は上がり、顔を上げることすらできない。
その様子を見た槙島は殴られた事に対する驚きや痛みなどすでに忘れたかのように恍惚とした笑みを浮かべる。

「素晴らしいよ、狡噛慎也。その剥き出しの闘志、身体の限界すら超える強い意志。今の世界に存在する誰もが失い、そして僕が渇望してきたもの。あぁ…君は本当に美しい。」

そういった槙島は再び狡噛にのし掛かる。

「僕はこの世界に警鐘を鳴らし、この世界を崩すために生きてきた。人とは何か、人の存在する意味とは何か。そして僕が存在する意味とは?多くを探し、多くを捨て、ついに僕は見つけたんだ。君という、この上ない答えを。」

手指の先から、頬、髪、足先まで、狡噛の身体全てに指を這わす槙島。
現在のあらゆる状況に対する屈辱と怒りを隠すことなく槙島を睨み続ける狡噛。
それを見て槙島は、ますますうっとりとした目を向ける。

「正直、こんなにも美しいものがこの世界にまだ残っているとは思わなった。その上それが今こうして僕の手の中にある。もし僕が旧世紀の人間だったならこう言うだろうね。“こんなにも幸せだなんて、もう、死んでもいい”と。」


「――それなら言葉通りに死んでくれるかい?槙島聖護」

二人の間に割り入ってきた声に、槙島と狡噛それぞれの驚きが重なる。
続けて響く銃声。
今度は槙島の身体がよろめき、崩れ落ちる。

声のするほうに顔だけを向けた狡噛が見たものは、ドミネーターではなく今となっては古めかしいただの拳銃を構える縢だった。

「…かがり?そんな、なんで、おまえ…」
「あれ?コウちゃんは俺が生きてて喜んでくれないの?」
「嬉しいに決まっているだろう!だがお前はさっき、俺の目の前で…」

死んだはず、と続けようとする狡噛の傍に寄り、その体を優しく縢が抱き寄せる。そして狡噛の乱れた服を直してやりながら話を続ける。

「俺はこうして生きてるっしょ?本当はコウちゃんにあんなもの見せたくなかったんだけど…あぁでもしなきゃ、こいつに隙ができないと思ったから。」

そういって縢は床に倒れる槙島を見やる。その腹部からは縢の放った銃弾が命中し大量の血が流れ出ている。

「…ハウンド4、縢秀星…どうやら僕は、君のことを、過小評価していたようだね…。」
「そいつはどーも。けどあんたもやるね。一発で仕留めるつもりだったのに。」
「…その言葉、君の真意として受けとるべきかな。」

撃たれた痛みは激しいだろうに、縢の言葉を聞いた槙島の口調には楽しさが滲む。

「君は…いや、君たちは、この部屋のホロシステムに干渉した…違うかい?」
「ごめーさつ。ウチの美人で天才分析官様がこの部屋に取り付けられたおかしな装置に気づいてね。うまい具合にホロシステムまでいじってくれたのさ。あんたには良い意趣返しだろ?」
「まったくだ。」

二人の会話を聞きながら、狡噛の表情からは未だ驚きが抜けない。その様子を見て縢は改めて狡噛に向き直る。

「コウちゃん、これ。」

縢が自分の持っていた拳銃を狡噛に差し出す。

「シビュラシステムは今日で終わる。今までの公安も意味を失くす。こいつを、槙島をどうするか…それは、コウちゃんが自分の意思で決めればいい。俺はコウちゃんの正義に従うよ。」

眼前の銃を見つめる狡噛。ゆっくりと、差し出されたそれを掴む。
縢は狡噛に銃が渡ったのを見てそこから手を離し、狡噛を支え立ち上がらせる。
縢の手を借りた狡噛が一歩ずつ槙島の側へ寄る。
倒れる槙島を見下ろす位置まで来たところで、狡噛は慎重に銃口を槙島へと向ける。

「そう、それでいい、狡噛慎也。君の殺意で僕を殺すんだ。」

微笑む槙島を狡噛が見つめ、続く沈黙。
果たして時間としてどのくらいが経っただろうか。
不意に空気が揺れ、刹那、響く銃声。

「・・・。」

再び誰ともつかない沈黙が流れる。
永久にも感じた静寂を破ったのは、槙島だった。

「これは…どういうつもり、かな。」

狡噛の放った銃弾は槙島の頭部のすぐ真横、冷たい床に沈んでいた。

「まさかとは思うけれど、外れたのかな?」
「違う…外したんだ。」
「それが君の意思だと?」
「そうだ。俺は、お前を殺さない。お前は…シビュラ崩壊後の最初の罪人として裁かれるべきだ。だがその裁きをするのは俺じゃない。だから、殺さない。俺はただあんたを…逮捕する。」
「シビュラに頼りきってきたこの国がすぐに新たな体制を築けると思うかい?」
「時間は問わない。」
「それを待つ間に僕が逃げるかも。」
「そんなヘマをするつもりはないが、まぁ安心しろ。万が一そうなったらまた逮捕してやるさ。」

そう言って微かに笑う狡噛に、槙島も笑みを返す。
そんな二人の様子を見ていた縢は、どこか面白くなさそうだった。

「ねえ、ちょっと。なんか俺だけ蚊帳の外じゃない?コウちゃんもさ、ホントにそれでいいの?」
「好きにしろと言ったのはお前だろ、縢。」
「そーだけどさ!」

好きにしたらいいとは言ったが彼がこんな風に穏やかに槙島と接するとは考えていなかった。
槙島をどうするか、縢は最終的な判断を狡噛にさせるつもりであえて急所を外すように撃ったものの、槙島が狡噛にしたことを考えればこの瞬間にでも自分が殺してやりたい気持ちである。

「気にすることはないんじゃないかな。縢秀星は、僕に嫉妬しているのだろう。僕達があまりにも解り合っているから。」
「そうなのか?」
「違っ……く、ない。あぁ、そうだよ!だってあんたたちが急に二人の世界作っちまうんだからさぁ!」

コウちゃんは俺のなのに、と続ける縢に狡噛が笑みを向ける。
その笑みが、先ほど槙島に向けたもののみならず他の誰に向けるものとも違っていることに、縢は気付いているだろうか。
少なからず槙島だけはそんな狡噛に気づいたかのように、まじまじとその表情を見つめた後、何か納得したような顔をする。

「…そうか、そうだね。今ならきっと…」

槙島が独り呟く。その呟きは小さく微かで、狡噛も縢も気付かない。
さらに槙島が手元の携帯端末を操作していることも――。

「ともかくここから出ないとな。縢、ギノ達と連絡を…」
「ねぇ、狡噛慎也。」
「なんだ。」
「君は僕が思っていた以上に優しいんだね。甘いというべきか。」
「悪かったな。」
「悪いとは思わない。今の僕にはそれが羨ましい。だからというわけではないけれど、君にひとつ頼みができた。…耳を貸してくれないかな。」
「…?」

狡噛が素直に槙島に顔を近づける。そういうところが甘いねと、内心微笑みながら槙島は狡噛の顔を引き寄せ、口づけた。その口づけはひどく優しく、温かかった。

「…!」
「ちょ…!あんた、何してんだよ!」

縢が慌てて狡噛を槙島から引き離す。

「ごめんね。けれど今の僕が“悪い”と思えることはこれしかなかったんだ。」
「槙島…?」

不思議そうな顔をする二人の耳に、人工的な声が響く。

『対象の脅威判定が更新されました。』

「な…!お前、何を…!」
「安心するといい。照準は僕だ。」
「どういうことだ!あのホロからこっちは対象外だと」
「今のここは僕のテリトリーだよ。どうとでもなる。」
「だからってお前の犯罪係数は…」
「そう、僕の色相はこれまで何をしても濁らなかった。けれどね、やっと僕にも、“悪い”と思えることができた。」

心から嬉しそうな顔をする槙島。
人工音声がそれを覆う。

『犯罪係数300。執行対象です。』

「僕は新たな世界の最初の罪人ではなく、シビュラ世界の最後の罪人としてここで消えるべきだ。」
「違うっ!お前はっ」
「狡噛慎也、やはり君は甘すぎる。でもだからこそ僕は…君たちを羨ましいと、そして心から祝福したいと、思えたのかもしれないね。」

『執行モードに移行。対象を自動排除します。』

「さようならだ、狡噛慎也。あぁ…本当に嬉しいな。これでようやく僕も、」

人になれるだろうか。

そう呟くか否か、槙島の身体が膨れて弾け飛ぶ。
飛散した血は暗い床に朱を広げ、それが確かに人であったことを示す。

「・・・。」

狡噛と縢は目の前に広がる槙島であったものを呆然と見つめる。

[newpage]

どのくらいそうしていただろうか。
狡噛と共に身動き一つとれずにいた縢の携帯端末にコールが入る。――宜野座からだ。
我に返った縢が慌てて応答する。

[やっと繋がったか!まったくお前は…唐之杜に色々と頼んだかと思えばまた連絡が取れなくなるなんて…とにかく縢、状況を説明しろ!]
「説明ったって…俺にも、何がなんだか」
[なんだと…?おい、狡噛は、あいつは無事なのか?それに槙島聖護はどうなった!]

曖昧な返答をする縢に焦れた宜野座が矢継ぎ早に問いかける。

「落ち着いてよギノさん!つーか落ち着きたいのは俺のほう…って、あ、コウちゃん」
「縢の言うとおりだ、ギノ。落ち着け。とりあえず俺は無事だ。」
[狡噛…!そうか、良かった…。あいつは、槙島はどうした?]
「…死んだよ。」
[…そうか。]
「何も聞かないのか?」
[報告は後で聞く。ひとまず、今は…早く帰って来い。常守達も、待っている。]

珍しくこちらを労わるような態度をとる宜野座に狡噛と縢は顔を見合わせてから笑い合う。

[何を笑っている!俺の話を聞いているのか!]
「あぁ、聞いてるよ、ギノ。わかってる、すぐに戻る。」
[遅くなったら報告書の枚数を倍にするからな。]

そんな言葉で通信を切った宜野座にまたも二人は笑みをこぼす。

「なんか…この時ばかりはギノさんに感謝?」
「普段は感謝ゼロか?ギノにばれたらまたうるさいぞ。」
「あー、そりゃ勘弁。ガミガミ言われる前に皆の所に戻るとしますか。」
「あぁ、そうだな。」

そう言った狡噛は、いま一度、槙島に目を向ける。

「コウちゃん…」
「最期にあいつは、あいつなりの尊い結末ってやつを迎えられたんだろうか。」
「…俺にはあいつが何を考えてたかなんてさっぱりだよ。けどさ…これが槙島なりの罪滅ぼしってやつだったんじゃないの。」
「罪滅ぼし、か。そんな言葉は久しぶりに聞いたな。」
「少なくともさ、あいつは俺たちを祝福したいって言ったんだ。だったら俺たちが槙島の代わりに、槙島が壊して生まれた新しい世界で生きて、刑事として働いて、もう二度と槙島みたいなやつを生み出さないようにしたらいいんじゃない?」
「…そうだな。その通りだよ、縢。」

槙島のやってきたことは許されることではない。それは狡噛自身が一番よくわかっている。
しかし槙島もシビュラが生み出した歪みに落ちてしまった一人の人間だった。
そう思うと、こんな結末を迎えた今でも狡噛は槙島を死なせずにいたかったと思わずにはいられない。

「…なぁ、縢。」
「なに?コウちゃん。」
「今度、一緒に佐々山の墓参りに行かないか。」
「え?でも俺らだけじゃ外には…」
「そんな制度、今すぐにでもなくなるだろ。それに、あいつにはきちんと報告しておきたいしな。」
「槙島のこと…?」
「もちろん、それもそうだが…」

言葉尻を濁す狡噛の、続ける先を縢が待つ。

「…俺には、大事な奴ができたから。だからもう大丈夫だって伝えたいんだ。」

これから迎える世界がどんなものでも、目の前の笑顔を守り、人らしい幸せを自分達の努力で築いていく――そんな決意が、今の狡噛と縢には溢れていた。




初:ぴくしぶ掲載2013.2.4
15話を見て16話がどうなるかあんまり怖かったもんで先に書いたもんがち!って書いたもの。














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